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大塚家具の客は家具を買いに来ているのではないー渦中の大塚家具で買い物をして気づいたこと

大塚家具の客は家具を買いに来ているのではないー渦中の大塚家具で買い物をして気づいたこと

大塚家具の経営権問題。テレビやネットで好き勝手コメントしている人たちの中には、実際に大塚家具で買い物をしたことがある人はどのぐらいいるんだろうか。そしてこの2年以内に買い物をした人、さらには報道が激化してからお店に足を運んだ人っているんだろうか。

引越に伴い机と椅子を買い足すため、渦中の大塚家具に行って実際に買い物をしてきたが、多くの気づきを得られた。自分で一次情報を取らずに報道に流されていた部分があったことをちょっと反省。

僕はあまりテレビを見ない方だが、全体的に会長(お父さん)よりも社長(娘さん)が評価されている報道が多いように思う。会長はやり方が時代遅れだとか、会社を私物化しているとかという印象を視聴者に抱かせているものが、少なくとも僕が見た中では多かった。

社長側が出した中期経営計画はとてもわかりやすく、株式市場の理解を得るには十分な内容だったかもしれない。ひとことで言えば「ニトリやイケア」と「現在の大塚家具」のちょうど中間にいる層をターゲットに設定し直すというもの。うん、確かにうまくいきそう。

でも、それで3年、5年先まで生き長らえた先には、もしかしたら何も残らないんじゃないだろうか。大衆に歩み寄り、「高級家具」のブランドを弱めてしまった大塚家具は、本当にお客さんを掴み続けることができるのだろうか。多くのブランド品がそうであるように、ブランドがあってこそ保てる利益率ってものがあるはずで、もしそれがなくなったら膨大な在庫維持費や配送単価のかかるビジネスモデルって大丈夫なものなんだろうか?なんて考えていた。

2年ぶりぐらいに大塚家具を訪ねると、最初の個人情報確認はなくなっていた。

何を買いにきたかを伝えると、営業男子がひとり付いてフロアを順番に案内してくれる。家具ひとつひとつの機能の解説はもちろん、その家具を作っているメーカーの特徴、似ている製品の違い、デザイナーの功績や思い、どんな部屋にどんな家具が合いやすいのか、部屋作りの考え方などわかりやすい言葉で丁寧にゆっくり話してくれた。

大塚家具で売られている家具のひとつひとつにはストーリーがあるように思えた。それを語る彼は本当に家具が大好きなんだとすぐわかる。同時に、自社が販売している質の高い高級家具にも誇りを持っているように思えた。会計後もアフターフォローの体制や問い合わせ方法などについて丁寧に教えてくれたし、長く大事に使ってくれよ!という気持ちが伝わって来た。

もちろん、最初に100万円を超えるようなバクハツ高い家具を見せておき、徐々に安いものに誘導して落としていくというありがちな営業販売手法も見事に洗練されていた。その証拠に、僕が大塚家具に入って手ぶらで帰ったことは一度もないが、一度も「売られた」「買わされた」と思ったことはない。すべて満足しているし今でも愛用しているモノばかりである。

素材のレベルを落とした模倣品を探せば、見た目ほぼ一緒の商品なんていくらでも見つかる。大塚家具で売られている10分の1ぐらいの価格で類似品を売っているネットのお店はたくさんあるだろう。(彼らの業績が低迷しているひとつの要因かもしれない)

でも大塚家具に集まるお客さんは、家具を買いにきているのではないんじゃないかと思う。家具そのものではなく、「大塚家具で家具を買う」という購入体験や、家具の持つそういったストーリーを買いに来ているのではないだろうか。もしかしたら会長が守りたかったのは、こういうお客さんとの関係や、現場で売上を作っている彼のような営業マンの誇りだったのではないだろうか。

経営計画のほんの一部をネットで覗いただけの僕が知ったようなことを言うのは違うかもしれないが、やはり現場にしかない真実というものもあるように思った。彼には聞いてみたいことが山ほどあったが、ミーハーな客や友人からの野次馬的な質問にうんざりしていることは想像に難くない。最後に「応援してるよ」とだけ伝えた。