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木村 圭介1984年、秋田県生まれ。2007年弘前大学を卒業。新卒で株式会社ドリコムに入社し、営業と新規事業の責任者として従事後、2010年に株式会社えふななに創業メンバーとして参画。2014年にキュービック入社。メディア事業本部長としてキュービックの柱となるメディア事業全体の統括に従事し、2021年から2024年までCHO(Chief Hito Officer)として人事責任者を務め、現在はキュービック子会社HYACCAの代表取締役社長を務める。
メディア事業本部時代を振り返って
木村
キュービックはもともと、13期(2019年6月)まで集客手法の機能別組織で組織編成されており、メディア事業は大きく3つの部署に分かれていました。私は、そのうち1つの部署を管掌していましたが、14期(2019年7月)に顧客業界別の組織体制へ変更したタイミングでメディア事業本部長に就任しました。
木村
大きく2つ要因があると考えています。
1つ目は、「ユーザーファーストの本質的な価値を届ける技術や文化を伸ばすことに注力したこと」です。デジタルマーケティング業界は構造上、「ハック」によって成果を生み出そうとする人や会社が多い傾向にあるのですが、私たちはコンテンツの品質やユーザー価値、顧客貢献といった「ビジネスとしての本質」に向き合うことを、強い意思で選択し続けました。
結果、クライアントやユーザーからの信頼、Googleなどのプラットフォームからの評価などがついてきて、しっかり業績に結びつけることができました。大手新聞社とのアライアンスが実現するなど、会社の真摯な姿勢が認められる機会が増えていったと感じています。
2つ目は、「営業力の強化」です。もともとマーケター主体の会社で、営業に対しては強く力を入れることができていませんでした。そのため、せっかく磨き上げていた媒体力やメディアの本質的な価値を、顧客である広告主企業に伝えることが十分できていませんでした。
営業組織を強化し、我々の強みをしっかり顧客へ伝えることができるようになったこと。ニーズをていねいに拾ってきめ細かく対応できるようになったことで、「ただの集客チャネル」との認知だったところから「事業成長のパートナー」として認めていただけるようになっていきました。
これにより、お取り組みの幅が大きく広がったり、大きな広告投資をいただけたりと、事業が加速していきました。対峙するメンバーの成長にもつながっていったと思います。
メディア事業の本部長としての振り返り
木村
正直、苦悩しかなかったです(笑)。12期までは、3チームのうち1チームの責任者として業績責任を持っていましたが、メディア事業本部長になった際、合計7チーム(メディア事業部全体)の業績責任を持つようになったため、管掌領域が一気に大きくなりました。これは大変でしたね。
木村
まず、「プレッシャーの質が変わったこと」と「マネージャーのマネジメント」ですかね。
本部長になる前は「3チーム中の1チーム」のみの管掌で、3人の事業マネージャーの中の1人でした。ここから本部長になることで管掌する規模は3倍以上になったわけですが、物理的な規模以上に「全社業績を1人で担う」というプレッシャーは大きかったです。当事者意識がぐっと高まり、「会社の課題は全て自分がつくっている」と考えるようになりましたね。
そして、抜擢人事でマネージャーたちを登用し、大きな役割を任せたことです。新任のマネージャーたちはメンバーとしての成果を生むことはできていたので、自分の業務マネジメントはできていました。しかし、マネージャーとしてのスキルは十分に備わっているはずもなく、多くのメンバーは成長によるキャッチアップを期待しての抜擢でした。ただ、そのキャッチアップ途中では誰かがカバーしないといけない。結局、本部長業務をやりながらマネージャーたちの業務をサポートするような状態となり、それが本当に大変でした。
さらに、「組織編成を機能別から業界別に変更したこと」も大きな壁になりました。旧組織体制では集客手法の機能別組織だったため、検索エンジンや広告媒体(Google,Yahoo!など)の特性・特徴の把握など、純粋なデジタルマーケティングの技術を磨いて戦う編成になっていました。一方、新組織体制においてはより広告主やインターネットユーザーといった顧客・市場に向き合うことを重視するため、「業界別」に組織構造を再編しました。この変更により、マーケターには3Cの観点などからマーケットを見立てて、戦略に落とし込むスキルが新たに必要になりました。デジタルマーケティングのオペレーションだけ回していれば成果が出る、という状態ではなくなり、メディア運営=事業運営として一段高いスキルセットを磨いていく必要がありました。
最初はこうした経験がなかったこともあり、多くのマネージャーができなかったんですよね。そのため、戦略については四半期ごとにかなりコッテリと振り返る場を設け、戦略立案スキルをていねいにインストールしていきました。最初は何をどう考えればいいかわからず戦術的なことばかりを語っていたマネージャーも、マーケット動向を深く洞察して戦略に落とし、その戦略をメンバーに深く浸透させることができるようになっていきました。
このプロセスを通じてマネージャーが成長してくれたおかげで、組織はかなり強くなったと実感しています。
特に15期(2020年7月〜2021年6月)は外部環境の変化が大きく、事業にとって厳しい1年でした。それでも会社を大きく伸ばせたのは、変化に対応し、自ら決断できるマネージャーが育ったおかげです。そしてそれは、配置戦略による育成・・・つまり組織体制の変更と抜擢人事が花開いた結果だと思っています。
木村
役割によって負荷が変わり、成長のギアが上がることですね。
実は私自身も本部長に就いたのは抜擢人事でした。かなり高い負荷がかかりましたが、振り返ってみると自分が一番成長できた期間だったと思います。
もともとは、各メディアの最大化が会社の業績を一番伸ばすことであると考えていました。そのため、各チームのマイクロマネジメントをしようとしていました。ただ、管掌領域が3倍に広がったことで、それでは限界があることに気づきました。逆に各マネージャーに任せてみると意外とうまくいこともたくさんある。ここでようやく「本部長としてやるべき仕事は何か?」を考えるようになり、「メディア事業全体の方針や戦略」に力を注ぐことができるようになりました。
木村
厳しいと思うギリギリのラインの負荷をかけられるようになりたいと思いました。
会社としても「仕事を通じて人は成長する」と考えていて、成長には絶妙な負荷が必要です。自分だけでは絶妙な負荷をかけるのは厳しいので、上司や会社として個々人の成長と向き合う必要があります。会社としてチャレンジを許容してくれる環境はありがたいですし、今後は私もその環境をつくっていきたいですね。
2021年7月に就任した「CHO」とは
木村
CHOとは「チーフ・ヒト・オフィサー」で最高人事責任者という意味です。世の中的にはCHROで「チーフ・ヒューマンリソース・オフィサー」が一般的かもしれません。
キュービックは昔からHR(ヒューマンリソース)という、人をリソースと捉える表現が好きではなくて。キュービックのコアバリューが「ヒト・ファースト」ということもあり、「CHO」としました。役割としては採用、育成、カルチャーづくり、PRなど、「経営目標を達成するための組織能力の調達と拡張」を担っています。
木村
主力であるデジタルメディア事業の「成長」と「発展」をさせることができる人材の獲得です。まずは、これまで通り既存事業の規模拡大ができる人の採用を進めていきます。他方では、現在のキュービックが持っている資産を使って次の事業を生み出すことができる人の採用をしていきたいと思っています。人材や組織構造なども既存事業に特化していたので、新しい事業を伸ばそうとしたときに「今までとは違う筋肉」が必要となるためです。
木村
例えば、今までずっと野球をやってきた人は、いくら野球で活躍していてもスポーツがサッカーになれば簡単にはうまくいきません。既存のデジタルメディア事業の成長では、「現時点であるものの改善行動」をするためのPDCAスキルと多数のメンバーを動かす力が求められます。逆に新規の事業を生み出す力は、「どんな未来をつくり出したいか」というビジョンを打ち出す力や市場・競合・ユーザーの「課題」を見つける力、PM(プロジェクトマネージャー)のスキルも必要が必要です。そういった意味で新規の事業を生み出せるスキルを持った人材も採用していきたいと考えています。
木村
キュービックに入社した人やキュービックをよく知る外部の人に言われる特徴としては、「社内がとても協力的である」という点があります。社内で新規事業を立ち上げるときは既存アセットを使っていくことがセオリーです。
他の会社だと、新規事業の部署はお金も生み出していないし、協力を仰いだときに時間を取られている感覚になってしまい、すごく嫌がられる、みたいな話をよく聞きます。しかし、キュービックでは嫌な顔をされることなく協力してもらえます。これは小さいようでかなり大きい魅力なのではないかと思っています。
CHOとしての決意
木村
もっと人事チームの「事業への解像度」を上げていきたいと考えています。経営や事業の目標を達成していく上で人・組織の強化が必要であり、私が事業サイドから組織サイドへ異動してきた狙いでもあります。
16期の人事組織のテーマに「プロアクティブ」という言葉を設定しています。「今までよりも一歩踏み込んで会社や事業を理解しにいき、人事施策を提案していく」という姿勢へのコミットメントです。経営の最大アセットである「ヒト」の最適化をしていきたいと考えています。
人事チームのメンバーの事業解像度やミッション、ビジョンへの理解を高めていき、人事の専門性と掛け合わせた筋の良い提案を、自信を持って経営陣にぶつけていけるような組織にしていきたいです。