以前とある会社にお邪魔した際、従業員のワークスペースのど真ん中にあるガラス張りの社長室に通された。
社長室と言ってもテレビドラマに出てきそうな重厚な応接セットがあるわけではなく、社長のデスクの他には軽めのテーブルと椅子がいくつか置いてある程度。従業員と一応空間は分かれているものの、ガラス張りなのでお互いの動きはもちろん目で追える状態。
とてもかっこよかった。お邪魔して社長と打ち合わせる際にはワークスペースの中を通されるので、従業員のみなさんの働いている様子を見られるのもよかった。
事務所の移転に際し、冗談半分で高橋さんに僕もガラス張りの社長室をオーダーしてみることにした。僕は冗談半分だったが、よく考えてみれば僕のわがままをいつも99%通してくれる高橋さんにとっては、ほとんどファーストプライオリティだったに違いない。
ということで、ガラス張りの軽めの社長室を作ってもらった。従業員と僕のスペースが区切られてしまうのはデメリットもありそうなものだが、実際に社長室を作ってみると、いいことがたくさんあった。
1. 自分のデスクやその周辺を散らかしにくくなる
旧事務所では僕のデスクの汚さはダントツNo.1だった。2位以下には圧倒的な差をつけていたはず。片付けるのはどうも苦手だ。
もともと「机の整理整頓ができないやつは仕事の整理整頓ができないやつだ」という考え方にも納得はしていないし、自分ひとりの仕事のパフォーマンスを考えた際には散らかすことが悪いことだとはあまり思っていない。
とはいえ、僕の散らかった机を見るだけで不快に思う従業員もいたはずで、申し訳ない気持がなかったわけではない。今回の僕のスペースは来客用にもなっているため、さすがに散らかしづらい。少し散らかしても、来客前にきちんと片付けようという気になるため、散らかりっぱなしという事態にはなりえない。はずだ。
2. 会議室がひとつ増えた感じ
普通に会議室を作ろうとするとソコソコ場所を取る。社長室は僕の仕事スペースと会議室の両方の機能を持っているので、実は省スペースになっている気がする。ガラスが音を通さないのは思わぬ効果で、会議の内容は基本的にワークスペースには響かないらしい。確かに、音楽をかけていても外にはまったく漏れていない。
3. 従業員とのコミュニケーションはかえって取りやすいことも
従業員との間に何もない方がもちろんコミュニケーションの頻度は増えると思う。が、僕と従業員が1対1でする会話は「他の従業員に聞かれると少ししづらい話」も多い。周囲と遮断されているぶん、こうした話がしやすくなることは、コミュニケーションの単純な回数・頻度は落ちても、「ついつい後回しにしがちな込み入った話」ができる頻度・回数は上がる効果があるように思う。
4. 用件をまとめてから話しかけられるようになる
部屋のドアは開けっ放しにしているけど、従業員からすればやはりわざわざ座席を立ってノックしてから入って話しかないといけないので、内容がまとまらないうちにダラダラ話しかけづらくなるはず。一度自分なりに考えてまとめてみれば、相談するまでもなく自分で判断できることだったなと気づくことも多いだろう。
5. 本来の社長業に集中できる
現場の仕事とは違い、経営本来の仕事は俯瞰的な視点かつ中長期のタイムスパンで物ごとを考えないといけないことが中心。現場業務にいちいち口を出していると視野狭窄に陥っていけない。
わかっていても社内に体を置いているといろんな声が聞こえてくるため、やはり気になってしょうがない。
今は、従業員との間にあるのはガラス1枚だけだが、物理的な距離以上に空間自体がセパレートされているぶん、細かい事項の確認をいちいちしようという気が起こらない。本来の仕事に集中することができる。「近くにいるし、見えるけど、音は漏れないし気持ち距離があいた感じ」ぐらいのちょうど良さを感じる。
とはいえ・・・
以上は現場のマネジメントを任せられる中間層がある程度しっかりしてきた現在だからこそ、「メリット」だと言い切れることだと思う。
空間が分かれているぶん、当然だがこまめなホウレンソウが遮断されやすい。現場で起こっている小さなトラブルの情報は入ってきづらいし、ほめてあげるべき従業員の小さな成果にも気づけない。現場のマネジメントが自分の手から離れていなかった去年のうちにこれをやっていたら現場は崩壊していたことと思う。つくづく、何ごともタイミングだなと思う。