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ランチに誘ってみやがれ

ランチに誘ってみやがれ

技術伝承のための研修の充実は、去年から力を入れて取り組んでいる経営課題のひとつ。

去年、メンバー数が一気に3倍近くまで増えた。特別プロジェクトを多く立ち上げた結果、一人当たりの負荷が上がった。丁寧な教育がやりづらくなることは多少想定していたが、全社としてのマーケティングスキルのダウンは見過ごせないレベルに達しつつあった。

ということで、去年の暮れからはもともと僕が持っている技術を再度棚卸しし、全体の底上げをしていくことに力を入れている。

ユーザーインタビューやクライアントへのヒアリングからサイトの企画に落とし込み、コピーライティングを施してページ化していく・・・この一連の流れに一貫したストーリーを持たせる技術はうちのコアコンピタンスなのだが、個人のセンスによるところも大きく、伝承は容易ではない。

勉強会を効果的に企画するのには頭を悩ませたが、すでに一通りの座学は完了している。ということで最終日の昨日はワークが中心になった。プレゼン資料を作るのが面倒だったからではない。決して。

ワーク:世一をランチに誘い出してみやがれ

一番盛り上がったワークのお題はこれだった。

4人1組となって今日のランチに僕を誘い出すためのLPを作る。実際にはページを作る時間はないので、全体のメッセージ設計と広告文作成まで。

  • TD(広告文)、ヘッドコピー、ページ全体のメッセージ(もしくはワイヤーフレーム)の3点を制作。
  • TDは付箋に書き出して壁に貼る。ユーザー(世一)にクリック(選択)してもらえないTDは、中身のヘッドコピーやサイト全体のメッセージを見てもらうことはできない。
  • 優勝チームにはその日のランチ代一人あたり2,000円(合計8,000円)を支給。

なお、TDは1チームあたり3個まで作ることができるが、これら全てにCPCを設定させた。

ランチ代8,000円を予算とし、この範囲でビッドする。CPCの上位8個のTDしか僕は見ない。どのTDにいくらのCPCをハるか、最後の5分で決める。1つに全てをハるチームもあれば、3個全てに高額設定をして検索結果をジャックしにくるチームもある。

戦略の間違いは戦術では取り返せない

TDの内容やビッディングの作戦で負けると、ページの中身を僕に見てもらうことすらできない。

ここでは「戦略の間違いは戦術では取り返せない」ということを伝えたかった。

「僕らの仕事は、常に見えない競合との戦いである」ということ、「見えにくいユーザー」と向き合う仕事でもあるということ。この2点を意識せずにメッセージを設計してしまう=戦略を間違えると、戦術では取り返しがつかない。

PCの向こう側にいるユーザーの顔を思い浮かべ、「彼」や「彼女」のためにサイトを作るという仕事の本質を思い直して欲しかった。

どうやれば世一をランチに誘い出すことができるか?競合はどんな作戦でくるか?その中で目立つTDを作るにはどうしたらいいか?わかりやすいユーザーを「1人だけ」意識することで、戦術よりも戦略にフォーカスしてもらおうと考えた。

  • 今月で辞めます、お世話になりました
  • 優秀な俺を採用したければ、本日焼肉をおごりなさい
  • 新規事業のアイディア思いついたけど教えてやろうか

事業関連や人事関連で刺しに来ようとするのは、やはり僕というユーザーをよくわかっているから。ユーザーを知ることがすべてだということはみんなわかっているらしくてホッとした。

わかっていない部外者は、「美味しいお店見つけました」みたいなTDで誘おうとするかもしれない。

これが僕に刺さらないことはうちのメンバーはよく知っている。メッセージを「美味しいランチ」に設定してしまえば、負けは確定する。LPの中身を焼肉にしようがカツカレーにしようが、僕がLPを見に来ることはない。戦略の間違いは戦術では取り返せないのだ。

ゲームの効果

単純だがゲーム形式のワークには威力がある。

特にチーム戦にし、些細ながらも賞品をめがけて戦ってもらうことは、上記の狙いを最大化してくれた。特に、「やる以上は勝負にこだわること」「負けると悔しいこと」「チームで1つのゴールに向かって協力すること」などを改めて噛みしめることになったと思う。

何より、マーケティングの楽しさを思い出してもらうことができた。普段追い込まれて仕事をしている彼らに、マーケティングにはヒトの心を動かすという面白さがあるということを思い出して欲しかった。

今日のゲームと違い、普段彼らが対峙しているユーザーは目の前の1人だけではない。毎日数千人・数万人が、僕らが寝ている間も遊んでいる間もサイトに来てくれる。どう動いたかもきちんと分析できるから、施策が当たったか間違ったかもすぐわかる。

こうして大量のユーザーとコミュニケーションを取れるのは、デジタルマーケティングの最大の醍醐味だ。日々の業務に忙殺されて楽しさとやりがいを見失ってしまうことのないよう、定期的にこういう機会は与えてあげたい。

広告運用チームがビッディングで負けた件

これは想像していなかったが、学びになった。

ソーシャルやコンテンツマーケティングのチームは、1クリック3,000円や3,500円を平気でビッドした。広告運用をやっているチームにはなかなかその勇気は出ないようで、せいぜい@1,000円程度。彼らがせっかく練り込んだTDは、その日唯一のユーザーである僕の目に触れることはなかった。

「今回のルールの中で勝負に勝つためにどうしたらいいか」ということを、ニュートラルに考えられたかどうかの差だろう。常識やクセ、日々の業務で培われてしまったマインドブロックは本当に恐ろしい。検討の時間を十分取らなかった(5分)ことも、判断力を鈍らせたかもしれない。

昨日までの常識を捨ててゼロベースで考え、ゴールへの最短距離を見出して瞬時に意思決定し、行動する。チームスポーツをやり込んだ人間はビジネスでも強いと実感するが、こういう頭の使い方に慣れているからなのかもしれない。

現場の子とコミュニケーションをとる機会は少なくなってきている。組織をでかくするためには、ピラミッドをきれいに作る必要があり、あまり現場とコミュニケーションをとらないほうがいいとも言われる。

が、この研修を通じてスジのいい子を発見したり力をつけ始めているメンバーを見出したり、学びは大きかった。しばらく自分で続けることにする。