乳酸菌にこうじ菌……微生物が生み出す酵素の力で、食材を発酵させる「発酵食」。食材の味や栄養価を自然に高められる、昔ながらの生活の知恵です。
発酵食を習慣化すると美容にも健康にもよいとはよく聞くけれど、手間がかかる印象があり、腰が引けていた人も多いはず。「発酵食=スローライフ」とも思われがちですが、実は材料を混ぜて仕込んでおくだけで、いつでもすぐに食べられる魔法のファストフードなんです。さらには自分で“育てる”ワクワク感もあるとなれば、やってみない手はありません。そこで今回は発酵活動家の田中菜月さんに、発酵食の魅力と気軽に楽しむためのヒントを伺いました。
- お世話して、めでて楽しい、発酵食のある暮らし
- 発酵食の“生きてる感”が、弱った私を癒やしてくれた
- 私の発酵道の原点、「発酵りんごソーダ」のつくり方
- 発酵食は、ゆるくて楽しい人生のパートナー
お世話して、めでて楽しい、発酵食のある暮らし
菜月さんは現在、旬のさまざまなフルーツを使った発酵ソーダをはじめ、ぬか漬け、ピクルス、みそ、醤油こうじ、塩こうじなどをつくって常備しています。カラフルな発酵食がおうちにずらりと並んでいる光景は目にも楽しく、見るたびにワクワクするのだそう。
特にハマっていてほぼ毎日食べているのが、ぬか漬け。「野菜をぬかに漬けるとビタミンが10倍ぐらいに増えるといわれているし栄養面でも大きなメリットがあるけれど、何より漬けて放っておくと勝手においしくなってくれるのが、不思議でおもしろいところ。しかも、切るだけで立派なおかずが一品できあがるって最高ですよね」
ファッション感覚で旬の野菜を自由に選び、ぬか床にハーブやスパイスを加えてアレンジを楽しむのが菜月さん流のぬか漬け。「野菜は定番のきゅうりや大根だけでなく、好きな野菜をどんどん試しています。プラスするスパイスも、唐辛子や昆布が一般的だけれど、燻製した黒こしょうやラベンダーなど、気になったものは思い切ってトライするのが正解。ぬか漬けには、冒険心や遊び心が大切ですから」
ぬか床生活を続けるうちに、菜月さんの中にある感情が生まれたといいます。「何かの本で“発酵は微生物の生命活動である”というフレーズを読んだのですが、本当に発酵食をつくることは“命を育てている”感じ。まるで自分の子どもを育てているみたいに思えてきて、すごく癒やされるんです」。何もせずに放置しておくと、菌が弱ってカビが生えてしまう。けれど、ちゃんとお世話して見守ってあげれば、菌が元気に活動して、どんどんうま味を増していく。そんな人間らしさも、発酵食の魅力なのです。
発酵食の“生きてる感”が、弱った私を癒やしてくれた
ぬか床の扱いもずいぶん慣れている様子の菜月さん。昔から食にこだわりがあるのかと思いきや、意外にも若い頃は食べること自体に無頓着だったそう。「朝食も取らず、洗顔だけして走って家を出る、みたいな生活を毎日繰り返していました」。そう話す彼女が発酵に出合ったきっかけは、なんとパニック障害になったこと。
「30歳で上京して、本格的に女優としてがんばろうと思っていた矢先に、電車で急に気分が悪くなって。自分では気づいていなかったけれど、がんばりすぎて心身共に悲鳴を上げていたみたいです」。そんなとき、健康のためにと友人から薦められたのが、りんごを発酵させてつくる「発酵りんごソーダ」でした。ちょうど自宅にりんごがあったので、実際につくってみることに。「10日ぐらいたった頃に恐る恐る瓶のふたを開けてみると、シュワー!と中身が勢いよく飛び出してきてびっくり。すごく元気な“命”が目に見える形で現れて、そのパワーに一瞬で魅了されました」
その日をきっかけに、いろんな食材を発酵させてはグビッと飲む日々が続き、発酵の世界にどんどんのめり込んでいったという菜月さん。気がつけば体調も改善していたそうですが「発酵食の魅力は“体にいい”だけではないと気づいた」と話します。
「発酵食を食べるという行為は、ただ一方的にものを摂取するんじゃない。自然の命をいただいて、一緒に生きているんだって感じることで、体はもちろん心も大きくプラスに変わっていったんです」。発酵食を通して、食事で元気をチャージするという感覚をリアルに得たと話します。
私の発酵道の原点、「発酵りんごソーダ」のつくり方
菜月さんが発酵に目覚めたきっかけで、今でもせっせとつくり続けている「発酵りんごソーダ」。りんごをりんごジュースで発酵させることで、ソーダのようなシュワシュワ感が味わえ、さらに生きたまま腸に届く植物性乳酸菌がたくさん発生するという発酵ドリンクです。つくり方も保存方法も簡単なので初心者にもおすすめだとか。
材料はりんごとりんごジュースのみ。りんご自体は菌のエサにするものなので、品種には特にこだわらなくてOK。りんごジュースも果汁100%なら濃縮還元でもストレートでもお好みで。基本的にりんごの糖分だけで発酵させるので、すっきりとした自然の甘味でシードル感覚で楽しめます。
瓶の大きさはりんご1個につき2リットル容量が目安。空気が少ない方が発酵しやすいので、ジュースは瓶いっぱいまで注いで、足りなければ水かお米のとぎ汁をプラスして。3日間はふたを開けずにそのまま常温で放置して、4日目からは1日1回かき混ぜて。そこから夏場なら2日後、秋冬だと1週間後ぐらいには飲めるようになります。「シュワシュワ感を楽しむならフレッシュなうちに飲むのがおすすめですが、発酵が進んでもビネガーになるだけなので、賞味期限も特になし。好きなタイミングで自分好みの飲み方でどうぞ」
発酵食は、ゆるくて楽しい人生のパートナー
菜月さんのお話を聞いていると、「発酵食=手間がかかってハードルが高い」というイメージが払拭(ふっしょく)され、自分なりに楽しんでやればよいのだと肩の力が抜けてきます。「私自身、もともとズボラだし、いまだにていねいな暮らしができているわけではないです。でも、発酵ソーダを仕込んだり、ぬか床をかき混ぜたりしているときは自然とていねいになるし、無心になれる。目には見えないけれど確かに存在する菌たちの声に耳を傾けていると、瞑想(めいそう)みたいな感じで心のチューニングになるんです」
もともと好きで楽しいことでも、手を広げていくにつれ「〇〇せねば」というノルマがたまって、しんどくなりがちですよね。「その点、発酵食は手軽で手間のかけようがないので、ついがんばりすぎてしまう人にもぴったり。まずは発酵のシュワシュワ感とか、ぬか床の香りや手触りを感じながら、楽しいって思える範囲でゆるーく付き合ってみてほしいですね」。今こそ発酵食を通して、目に見えない命のパワーにふれてみてはいかが?
Profile
田中菜月
発酵活動家NHKドラマ『中学生日記』で女優デビューし、モデル・レポーターとして活躍。近年は発酵活動家として「N’s Hakko Lab」を主宰。YouTube「発酵ナッチャンネル」、オンラインサロン「ほんとうのじぶんとつながる」などで発酵食の魅力を発信する一方、スターバックスコーヒージャパンをはじめ、企業とのコラボメニュー開発も多数。著書『ゆるくてしあわせな発酵生活』(三笠書房)も好評発売中。
http://beautyflow.sunnyday.jp/
Instagram: https://www.instagram.com/natsuki_hakko/?hl=ja
取材・文/井口啓子 編集/柳瀬 礼(Roaster) 撮影/藤井由依(Roaster)
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