日本の伝統的な染め方、“草木染め”をご存知ですか? 聞いたことはあるけれど、よくわからない……という人は多いのではないでしょうか。草木染めとは果実や植物などの天然素材を煮出してつくった染液に、綿などの糸や布を入れて染めることをいい、サスティナブルで環境に配慮できる染色方法として近年注目されています。やり方を覚えれば、料理で残った野菜の種や皮などを使って自宅で染色することもできるのだとか!
そんな草木染めを、サスティナブルファッションブランド『KIGINU』のディレクターで、環境問題について詳しい西内ひろさんが体験! 実際にオリジナルアイテムをつくり、地球にやさしく、家でもできる草木染めの魅力を探ります。
- 愛着が湧き、長く使えるサスティナブルな一点モノ
- アボカドで草木染めをしてみよう
- まるで実験!? 色が変わる“媒染”を体験
- 自分で染めた色を長持ちさせるケア方法
愛着が湧き、長く使えるサスティナブルな一点モノ
草木染めは化学染料と違い、使う材料や染液に浸す時間、染める人によって色が変わるので、同じ色で大量に生産することはできません。「でもその“一点モノ”感が大きな魅力ですよね」と西内さん。最近はSDGsの観点からも、長く愛せる “語れるモノ”の魅力に引かれているといいます。
「草木染めをすると一点モノの魅力に“自分でつくる”という工程がプラスされるので、さらに愛着が湧きますよね。語れるモノになるから簡単に捨てずに長く愛用できるし、結果サスティナブルにもつながると思います」
西内さんが環境問題に興味をもったのは、フィリピンの観光大使を務めたことがきっかけ。「フィリピンの(観光地として有名な)ボラカイ島が環境汚染で半年間観光客の受け入れを停止していた時期があったことを知って。マリンスポーツが大好きなので、海に焦点を当てて環境問題について勉強しました。そこでマイクロプラスティックによる海への影響や、合成染料の染色排水が環境汚染の原因となっていることも知り、私が監修しているブランド『KIGINU』でも草木染めの導入を考えるようになりました」
「草木染めって古来のものだからなんとなく古くさいイメージがありますが、実はそんなことなくて、逆に今の時代に合った素敵な染色方法だなと今回再確認できました。ファッション業界はどうしても化学染料を使いがちですが、草木染めでもきれいな色に染まるし、環境にもやさしいということを広めていきたいです」
アボカドで草木染めをしてみよう
今回、手染めでの草木染めのやり方について教えてくれたのは、東京の西荻にある「NONA Temari & Natural Dye」の中澤さん。草木染めで染めた綿100%の糸を販売している店舗兼アトリエで、毎月、手染めのワークショップを実施しています。
ワークショップごとに染料をつくる素材は変わるそうですが、今回提案していただいたのは、家庭でもよく食べられるアボカド。おいしく食べた後に残る皮と種を使い、オリジナルTシャツとエコバッグを手染めしていきます。
【染色液のつくり方】
まず、水を入れたボウルに手でちぎったアボカドの皮と種を入れ、火にかけます。少しずつ水が茶色に色づき、沸騰したところでスプーン一杯の重曹を加えるとパッと濃いオレンジ色に! 沸騰して15分たったら火を止め、そのまま45分ほど置いて液を酸化させたら、染液の完成です。
【生地の下準備のやり方】
綿やリネンなど植物性の生地は色が入りにくいため、染液が完成するまでの間に下準備をします。
淡い色に染めたい場合は、生地を湯通ししてよく洗い、絞って水気を切っておきます。
濃い色に染めたい場合は、濃染処理液(ウールや絹など動物性の繊維と比べて、色がつきにくい植物繊維を染まりやすくしてくれる液体)を使います。80〜90度くらいのお湯に生地100gに対して10gほどの濃染処理液を混ぜ、生地を入れてよく動かしながら浸します。15分ほどたったらお湯から生地を取り出し、よく洗ってから水気を絞ります。※濃染処理液は牛乳や豆乳でも代用できます。
【染色のやり方】
1.染液に下準備をした濡れたままの生地を入れ、よく動かしながら浸す。
酸素に触れることで色が濃くなるので、最初の5分は生地を上にもち上げるようによく動かします。その後は染液の中で裏返したり広げたりして、ムラをつくらないようにまんべんなく浸しましょう。
2.15分ほどしたら染液から生地を取り出し、よく洗ってから絞って水気を切る。
目安は15分ほどですが、自分好みの色になったら取り出してOK。取り出したら、水が濁らなくなるまで洗い流します。素材がコットンやシルク、リネンなどの場合はしっかりと、ウールの場合はやさしく洗うのがコツ。「こうやって水道で洗う際も、流す染液はアボカドから出た染料と水、重曹だけなので罪悪感なく流せますね」と西内さん。その後は脱水機を使ってしっかりと水気を切ります。
3.陰干しする
脱水が終わったら日陰に干します。生地をはたいてからまっすぐに伸ばして干すことで、色がきれいになじみます。乾いたら完成!
まるで実験!? 色が変わる“媒染”を体験
草木染めにはもうひとつ“媒染(ばいせん)”というおもしろい工程があります。媒染とは、染液で染めた生地をミョウバンや鉄媒染剤(どちらも金属の化学反応で色が変わります。ミョウバンはアルミ、鉄媒染剤は鉄の化学反応を利用します)を混ぜたお湯に漬けることで、色を変化させること。また、染料と生地の繊維を結びつけ、色を定着させる役割も担うので、染色の前に媒染の作業をする場合もあるそう。アボカドの場合は媒染がなくてもきれいに染まり色落ちも少ないとのことですが、大半の植物は色を定着させるために先に媒染が必要です。
【媒染のやり方】
1.40〜60度くらいのお湯に媒染剤を入れてよくかき混ぜる
媒染剤は生地量に対し5〜10%の分量を目安に入れます。今回のTシャツは200gほどなので、10gの媒染剤を使いました。
2.生地を媒染液の中に入れ、よく動かしながら浸す
最初の5分はよく動かし、その後は媒染液に漬けておきます。入れた直後からみるみるピンクがグレーへ変化!
3.15分ほどしたら取り出し、よく洗ってから絞って水気を切る
取り出す目安は15分ほどですが、満足のいく色に変化したら、最後は染色と同様、水で洗い流します。陰干したら完成!
自分で染めた色を長持ちさせるケア方法
たとえ理想の色にはならなくても、自分で染めるからどんな色になっても楽しく、つくったものには愛着が湧きます。そうやってつくったオリジナルアイテムだからこそ、色を長持ちさせるケア方法も合わせて覚えて、長く使いたいもの。草木染めは自然な染色方法なので色落ちがしやすいイメージがありますが「実は草木染めが特に色落ちしやすいということはないんです」と中澤さんは言います。「中性洗剤で手洗いすることを推奨しますが、それは化学染料で染められた大切に着たい既製品と一緒です。ただ太陽光には弱いので、干すときは陰干しがおすすめ。アイロンをかけるときは、低温であて布をすると長くきれいな色を保てます」
また色が落ちてしまったとしても、その「変化を受け入れることも楽しい」という中澤さんのアドバイスも。「既製品だと色落ちしたら古さを感じて使わなくなってしまうこともあると思いますが、草木染めは色落ちを含めた経年変化を楽しめます。薄くなったら染め直しもできるので、“色落ちしないようにケアをしないと”と思わずに、変化を受け入れ、その移り変わりも楽しむ気持ちに変えていくと、もっと草木染めの魅力を堪能できると思います」
染色とケアの方法を一緒に体験した西内さんは「草木染めってサスティナブルな観点からも、ファッション的にもいいことずくめなんじゃないかな」とニッコリ。「くすんだ絶妙な色は近年トレンドですし、色落ちしてきたら染め直して長く着られる。一度草木染めを体験してみるとその魅力に気づけると思います」
地球にも人にもやさしく、実験のようなワクワク感と心の癒やしを与えてくれる草木染め。やり方さえわかれば、今までは捨てていたようなシミが付いてしまった服や色落ちしてくたびれてしまった服などを、自宅で染め直して新たに生まれ変わらせることもできます。西内さんが提案するように、サスティナブルなファッションを自分の手でつくってみませんか?
Profile
西内ひろ
ライフスタイルデザイナー/プロデューサーフィリピン観光親善大使、宗像環境国際会議アンバサダー。16歳で芸能界に入り、雑誌やTV、ミュージカルに出演するなどタレントとして活動。2014年にミス・ユニバース ジャパンで準グランプリ。フィリピン観光局動画制作をきっかけにフィリピン観光大使に任命され、同国の映画『kintsugi(金継ぎ)』にヒロインとして出演。最近はSDGsに根差した環境教問題への取り組みを国内外で行っている。サスティナブルブランド「KIGINU」の監修も務める。不定期で「KIGINU」のPOP-UPイベントも開催している。
Instagram:https://www.instagram.com/0214hiro/
HP:https://hironishiuchi.flag.gg
監修ブランド”KIGINU”:https://kiginu.com
取材・文/木下歩 構成/松﨑明日海(Roaster) 撮影/中野理
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