あなたにとって「洗濯」とは、どんな時間ですか? 面倒? できるならやりたくない?
「数ある家事の中でも、洗濯って重要度が低いんです。一番は料理、次に掃除や片付けで、洗濯は最後」。洗濯研究家の平島利恵さんがそういうように、仕方なく済ませている人が多いのが現状です。それでも暮らしの中で必ずやらなければいけない洗濯。この時間がもし、あなたにとって楽しいものになるのだとしたら、ハッピーだと思いませんか。「洗濯のストレスはなくすことができる」と語る平島さんに、楽しい洗濯のコツを伺いました。
- 日本人がもみ洗いに費やす約1000時間を取り戻そう
- 洗濯を「面倒」から「楽しい」にする仕掛け
- ワクワクするほど汚れが落ちる楽しい洗濯法
- 洗濯のストレスはなくすことができる
日本人がもみ洗いに費やす約1000時間を取り戻そう
「洗濯をホッと一息つける時間に変えたい」という想いで、自身が開発した洗剤Rinenna(リネンナ)を販売している平島さん。開発の契機となったのは、2011年の出産と東日本大震災でした。紙おむつが品切れで買えず、仕方なく布おむつを使った平島さんは、経済的でゴミが出ない布おむつの魅力に気がつきますが、同時にどうしてももみ洗いをしないと汚れが落ちない、洗濯のストレスに悩まされたそうです。
「もみ洗いに使っている時間が気になって調べてみたら、生活環境にもよりますが、子どもがいるお母さんの場合、生涯で合計約1000時間(1日10分×週6日×20年間)ももみ洗いをしている計算になるんです。子どもの排泄物、ミルク染み、食べこぼしから始まり、泥汚れ、運動靴やユニフォームなど。それがわかったときに、1000時間ももみ洗いしている場合じゃない!と思って(笑)。それで、もみ洗いしなくても汚れがきれいに落ちる洗剤をつくって、私も含めて、みんなの時間を取り戻したいと思ったんです」
もみ洗いだけでなく、「思ったより汚れが落ちない」「洗ったのににおう」「工程が面倒」といった洗濯のストレスをなくす洗剤を目指して、ようやく見つけた原料会社さんと開発を始めた平島さん。
「その原料会社さんがつくっていたのはプロ用の洗剤だったのですが、一般家庭でプロのやり方を真似することはできない。一般家庭でも簡単に使えて、汚れがすっきり落ちる洗剤をつくりたくて、何度も話し合いを重ねました」
1年ほどの時間をかけてようやく完成した洗剤Rinennaは「洗濯自体の概念を変えるブランド」として世に出すことになりました。
洗濯を「面倒」から「楽しい」にする仕掛け
Rinennaには「圧倒的な汚れ落ち能力」のほかにも「洗濯を楽しむ仕掛け」が詰まっています。平島さんがまずこだわったのは香り。「Rinenna #1」は優しくてさっぱりしたマンダリンシトラスの香りです。
「私がつくりたかったのは、汚れがしっかり落ちるのはもちろん、洗剤をスプーンですくったときにいい香りを楽しめる洗剤。開発が難しいオーダーを私が絶対譲らなかったので、原料会社さんは呆れ果てていたと思います(笑)。でも、洗濯を楽しみたいから、妥協はしたくなかった」と平島さん。つけ置きが必要なほど汚れた衣類は、嫌なにおいがすることもしばしばですが、Rinennaを使えばつけ置き用のタライからオレンジのようないい香りがしてくる……。洗濯のネガティブな点をうまく解消し、むしろどんどんつけ置きしたくなるようなこのアイデアにこだわりました。
ありそうでなかった箱のデザインもポイント。捨てやすく、サステナブルな紙製で、使う人がハッピーになる、インテリアに馴染むデザインを目指したといいます。
ワクワクするほど汚れが落ちる楽しい洗濯の方法
日々の洗濯を気持ちの良い時間にする方法を伝えている平島さんですが、意外にも「私が伝えていることは、洗濯のスゴ技のようなことではなくて、お料理でいうとお米の研ぎ方くらいの基本」だといいます。
性能がいい洗剤や洗濯機の登場で、知識がなくても洗濯はできますが、汚れがきちんと落ちる方法で洗濯している人は少ないのだそう。「汚れが落ちていない服をそのまま着ている人がほとんど。楽しく洗濯できる技術は整っているのに、文化が追いついていないんです。汚れがスルッと落ちる方法を知れば、それだけで洗濯するのがおもしろくなるはず」
それでは、洗い上がりにワクワクするほど、理想通りに汚れが落ちる「楽しい洗濯法」を教えてもらいましょう。衣類についた汚れやにおいをきちんと落とすコツは、意外とシンプルなこの2つです。
① 洗濯物は洗濯機に入れすぎない。8分目までを守る
②「すすぎ」は必ず2回以上する
すすぎの回数を増やすだけで、衣類の汚れ落ちは劇的に変わるそう。「汚れがひどい場合は、洗剤を変えたり増やしたりするよりも、すすぎの回数を増やしてみてください」
平島さんおすすめの洗濯ルーティンは、洗濯機を回している間に、汚れのひどいものだけをつけ置きをするやり方。Rinennaを使う場合は、ちょうど1回目の洗濯が終わる頃(30〜40分後)につけ置きが完了するので、入れ替えて洗濯機で洗濯をすると効率が良いそうです。
洗濯のストレスはなくすことができる
「Rinennaで私が伝えたかったことが、きちんと伝わるまで3、4年かかりました。一般的な洗剤の10倍の価格なので、最初はただ高級洗剤っていわれて。そうじゃなくて、もみ洗いからは解放される、落ちない汚れと戦うストレスはなくすことができる、それがどんなにあなたの暮らしを楽しくするかということに気づいてほしい」と平島さんはいいます。
面倒な工程は道具や洗剤に頼って楽をする。良い香りだったり、おしゃれな見た目のグッズを使って気分を上げる。節約した時間は、自分の好きなことに使う。あなたなりのやり方で「洗濯の時間は変えられる」と気づくことが、楽しい洗濯への最初の一歩です。
最後に、もみ洗いに使っていた時間を平島さんは何に充てたのかを聞いてみました。
「私は仕事の時間になりました(笑)。やっぱり仕事が好きなので。より良い方法を探したり、実験をしたりする時間が、私にとっては癒やしなんです」
Profile
平島利恵
洗濯研究家洗剤と布おむつ、布ナプキンを販売する株式会社Heulie(ユーリエ)代表。「理想の洗剤がないならつくろう」という想いから、一切の妥協がない洗剤Rinenna(リネンナ)を開発。「家事の概念を変える」をミッションに、TVや雑誌、YouTubeなどで洗濯を楽しくするコツを伝えている。
取材・文/赤木百(Roaster) 撮影/コーダマサヒロ 撮影協力/宮垣歩乃佳(Roaster)
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