今日の出来事を振り返りながら、歩く夕暮れの帰り道。うまくいった日も、そうじゃない日もあるけれど、がんばった私へお疲れ様を言いたい気分。そんなときは、銭湯に立ち寄るのも粋な癒やし方かもしれません。
今回のテーマ、銭湯のいろはについて語っていただくのは、銭湯とサウナツウとしても知られる女優の清水みさとさん。
「銭湯は誰にでもオープンな場所。だからこそ、おばあちゃんの家に帰ってきたような、あったかさあふれる場所なんです」というように、地域の人々の交流の場所として、脈々と受け継がれてきた日本ならではのカルチャーにふれられる機会でもあります。帰る家がもうひとつあるような感覚で、銭湯へ。清水さんに銭湯を楽しむ秘訣について教えていただきました。
- そこへ集う人々が、銭湯の魅力をつくり出す
- 通いたくなるユニーク銭湯と、ハシゴ銭湯のすすめ
- 「ふらっと」がキーワード。手ぬぐい1枚で銭湯へ
- お風呂だけに終わらない、銭湯の着目点
そこへ集う人々が、銭湯の魅力をつくり出す
清水さんが銭湯のトリコになったのは大学生時代。ダイエット目的で通っていたジムでサウナの爽快感にハマり、他にもサウナのある場所はないかと探すうち、サウナが併設された銭湯に巡り合いました。
「銭湯って、初めての人にでも、“こんばんは”“おやすみなさい”という挨拶が飛び交う場所。そこから自然に“どこに住んでいるの?”なんて会話がはじまって、何度か通ううちに、地元の方と仲良くなってしまうんです。私はお風呂で、地元のお母さんたちと話すのが日常の楽しみのひとつになりました」
何を言っても“はいはい、そんなの大丈夫”と言ってくれるあっけらかんとしたお母さんたちのおかげで、悩んでいたことも忘れてしまうのだそうです。
また、地域によって、訪れる人の雰囲気が違うのも銭湯のおもしろさ。
「同じ東京でも、下町に行くとちゃきちゃきした人懐こい人が多かったり、都心だとマダム風の優しい人との出会いに恵まれたり。銭湯にいると、その街の雰囲気を知ることができます。旅した気分にもなれるので、地方へ行ったらまずはどんな銭湯があるか調べて足を運ぶようにしています」
通いたくなるユニーク銭湯と、ハシゴ銭湯のすすめ
数多くある銭湯ですが、ざっくりタイプを二分すると「家族経営で代々営む昔ならではの銭湯」と、「新しさを取り入れたモダンな銭湯」があるのだそう。
「その両方に属するものもあったりと、カテゴライズは曖昧なのですが、家族経営タイプに多く見られる昔ながらの銭湯は、地域の人たちのために淡々とお湯を沸かし続ける、変わらないことを大切にする姿勢が好き。それに対してモダンな銭湯は、銭湯文化に親しみがない若い人たちも、銭湯に興味をもつきっかけになるアイディアを取り入れている特徴があります」と清水さん。
全てのタイプに共通して、ホームのように落ち着ける昔懐かしさは存在しており、人情味あふれる場所であることは一緒です。また、基本は洗い場と浴槽のみがあるというのが銭湯なのですが、限られた空間の中で、おのおのの銭湯がこだわりをもっているのを見つけたとき、うれしくなってしまうのだそうです。
どんな工夫があるのか興味が湧いたところで、清水さんのお気に入り銭湯の中からいくつか紹介していただきました。
黄金湯
「既存の銭湯の常識を超えた銭湯。DJブースがあって、日によって違う音楽がセレクトされているのが楽しいです。2階ではアカスリもできたり、女湯には国産ヒノキを使用したセルフロウリュ(熱したサウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させるサウナ入浴法)ができるサウナと、セルフロウリュサウナ専用の日替わりのアロマ水の用意などもあったりします。入り口にはクラフトビールのバーもあります。浴室内の壁にかかっている札や桶(おけ)のチョイスなど、細かいところにこだわりを感じます」
『黄金湯』
住所_東京都墨田区太平4-14-6
電話_ 03-3622-5009
https://koganeyu.com
昭和浴場
「一見、昭和を感じるごく普通の銭湯なのですが、入浴料だけで生のマジックショーを見られるというユニークなサービスがあります。浴室の鏡がハート型になっているのですが、これはオーナーさんの趣味。かわいくてほっこりします」
『昭和浴場』
住所_東京都中野区中央5-21-12
電話_ 03-3382-2414(お電話のお問い合わせは15:30以降)
https://showa-bathhouse.com
改良湯
「渋谷のど真ん中にある銭湯。浴室のライティングが、海の底にいるかのような暗さと青い光で構成されていて、とてもスタイリッシュ。昔からある銭湯なのですが、初めて行ったら、都会らしい演出に好奇心をかき立てられると思います」
『改良湯』
住所_東京都渋谷区東2-19-9
電話_03-3400-5782
https://kairyou-yu.com/access/
銭湯をハシゴするのにぴったりのおすすめの「地域」もあります。
「銭湯を開拓する中で気がついたのですが、品川区周辺は銭湯が多い地区のように感じます。新幹線が通っているような大きな駅があるのに、意外ですよね。歩いて行ける距離に個性豊かな銭湯が点在しているので、湯巡りすると楽しいです。クラフトビールが飲める金春湯に、露天風呂がある宮城湯や戸越銀座温泉、サウナ併設のピース湯など、いろんな銭湯を巡って、お気に入りを見つけてみてほしいです」
京都もまた、地下水が豊富で水質が良いことから、銭湯が多い地域だといわれています。
「お風呂やサウナに入って裸で休憩しているときに、なんと餃子が食べられるという、餃子屋さんと銭湯がひとつになった完全予約制の銭湯も。その名もぎょうざ湯。遊び心たっぷりのコンセプトで、銭湯好きを楽しませてくれます。京都へ行ったときは、個性的な銭湯を探して、湯巡りするのがお決まりなんです」
「ふらっと」がキーワード。手ぬぐい1枚で銭湯へ
持ち物は手ぬぐい1枚あればよし。清水さんのルーティンからお湯のたしなみ方を探ってみることに。まずは気軽に立ち寄ることが、銭湯ライフを楽しむコツ。
「浴槽に入る前に体と髪を洗い、長い髪は束ねてお湯に浸からないようにするのがルール。それさえ守ればあとは自由です。湯船の中で脱力していると、そのうち体も心もほどけるような感覚になってきます」
壁にある張り紙などの文字を眺めるのも好きな時間。お湯の中でのんびりしていると、銭湯の歴史や入浴の仕方の説明文などをじっくり読みたくなってしまうそうです。
お気に入りの銭湯のひとつ、黄金湯で提供されている「季節のソーダ」は清水さんの大好物。シュワシュワした炭酸とごろっとした果肉が入ったソーダは湯上がりの体に染み入るよう。
「ジュースタイムが終わったら長居はしません。夜風に当たりながら歩くと気持ちがいいので、さくっと入ってさくっと帰るのがお決まりです」
お風呂だけに終わらない、銭湯の着目点
お湯に浸かる以外にも、銭湯にはおもしろさがいっぱい。入口や脱衣所にあるのれんのデザインからも、銭湯の個性を垣間見るヒントがあります。
「今日訪れた黄金湯の場合、男湯の脱衣所にあるのれんには“お〜〜〜”と描かれていて、女湯の脱衣所ののれんには“い“と描かれている。そう、両方合わせると“お〜〜〜い”、になるんです。よく見ないとわからないようなところにもほっこりする工夫をこしらえているんですよ」
「番台も銭湯それぞれ。すべてを見渡せる高い位置にあるものや、フロントの中央にあり、そこで飲み物やグッズ販売をするようなおしゃれな番台のお店もあります。そういった細かい部分を観察していくと、もっと銭湯について知りたくなるものです」
そして、銭湯のシンボル的な存在でもあるのが壁絵。
「昔ながらの富士山を描いたタイル絵やペンキ絵もいいですし、デジタルサイネージを使ったネオ壁絵のある銭湯もあります。銭湯に行くことのきっかけが必ずしもお湯目的ではなく、内装の好みだっていいと思うんです」
良さを感じるツボは人それぞれ。思わぬところに転がっている「好き」を見つけにいくのも銭湯の楽しみ方だそう。
いつ行っても、温かく迎え入れてくれる、柔らかい場所。今日からそこは、もうひとつのホームになります。誰かと話したくなったら、銭湯へ行ってみませんか?
Profile
清水みさと
女優毎日のようにサウナや銭湯に通う大のお風呂好き。好きが高じて、多数の媒体でサウナや銭湯企画に出演し、そのすばらしさを世に知らしめている。サウナ・スパプロフェッショナルの資格も所持。パーソナリティを務めるラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(JFN21局/AuDee)も好評配信中。
Instagram:https://www.instagram.com/misatoshimizu35/?hl=ja
取材・文/渡辺愛 編集/本間綾乃・田村真里佳(Roaster) 撮影/菅原景子 イラスト/谷水佑凪
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