「ナチュラルワインの楽しみ方は飲むだけでなく、歴史や種類を知ったり、好きな人同士で語ったりなど幅広いんです。自分好みの味を探し続けることで人とのつながりも増え、視野や興味が広がりました」と語るのは、幡ヶ谷でイタリアン&ナチュラルワインの店「SUPPLY」を旦那さんと営む、小林希美さん。店ではワインを担当。
最近よく耳にするナチュラルワインが気になってはいるけれど、どう選んでいいのかわからない……。そう感じるあなたのために、小林さんに好みのナチュラルワインと出合うためのコツやその魅力を教えてもらいました。
- ナチュラルワインの魅力にハマる人が増えている理由って?
- ナチュラルワインとの出合いが、人生を豊かにしてくれた
- おいしいだけじゃない、ナチュラルワインの楽しみ方
- ナチュラルワインに合わせたい、オススメ料理
ナチュラルワインの魅力にハマる人が増えている理由って?
ナチュラルワインが脚光を浴びるようになったのは4〜5年前、ちょうどインスタグラムがはやり始めた頃と重なります。「個性的なラベルや濁った色合いなど、最初はビジュアルのかわいさが女性たちのハートを射止めたようですが、飲んでみて、さらにそのおいしさと奥深さにハマる人が少しずつ増えていったんだと思います」と小林さん。
そもそもナチュラルワインとはどんなものなんでしょうか? 明確な定義はありませんが、一般的に、化学肥料や農薬を使用せず自然栽培されたブドウを用いて、なるべく自然な手法で造られているワインのことを指します。亜硫酸などの酸化防止剤は添加しない、もしくは極力微量に抑えられているものがほとんど。「頭痛がするからワインは苦手という人や、お酒自体をあまり飲まない人でもナチュラルワインなら飲めるし、とてもおいしい!という人が多いんですよ」
自然な手法にこだわったナチュラルワインですが味や種類はさまざま。果実味が前に出たクリアな味がするもの、ミネラルや酸が強く感じられるもの、スパイシーさが際立つもの、よい香りが鼻をくすぐるもの……など個性派ぞろい。うま味も濃厚ですが、そのどれもがやさしい味わいなのが特徴です。
ただ、生産量や輸入量も限られているので、欠品になっていることも多いそう。「ある日おいしい!と思ったワインを次に飲んでも、生産者さんの環境やタイミングによって味が変わったりするので、あれ?こんな味だったっけ?ということも。ナチュラルワインって一期一会なんです」。添加物が入っていないので安定供給が難しい分、味や状態に不安定さがあるのはご愛嬌(あいきょう)。おいしいのももちろんですが、飲むたびに違う表情を見せてくれることもまた、ナチュラルワインの魅力だと小林さんは話します。
ナチュラルワインとの出合いが、人生を豊かにしてくれた
ナチュラルワインならお任せあれ、と笑顔で説明をする小林さんですが、もともとは美容師になりたかったそう。カフェでバイトをしたことで、その店のメニューにあったワインのおいしさに目覚め方向転換。その後働いたナチュラルワインの草分け的存在の店でナチュラルワインと出合い、この世界に入りました。
「それまではよくわからなかったワインの味の違いが、すごくよくわかって、何よりおいしかったんです。さまざまな店に行って味わいの違いを感じることが楽しくて、気づけばすっかりナチュラルワインが生活の全てになってしまいました」という小林さん。今もなお、ナチュラルワインの魅力に引き込まれているといいます。
例えば生産者やメーカーについて知る楽しみがあります。科学者でバンドマンだった人が醸造家になったとか、有名シェフが店を閉め、ワイン造りに情熱を傾けるようになったなど、ストーリーがあって個性的な生産者が多いナチュラルワインの世界。
ブドウの品種や生産地が同じでも、造り手の個性によって味がまったく違うのだとか。「エリアや品種だけでは判別できない味の複雑さがおもしろくて。飲めば飲むほど、そのワインのテロワール(ブドウの樹をとりまく環境)や生産者の想いなどを感じることができてうれしくなります」。ナチュラルワインを飲むだけで、知らない土地の知らない人の物語に触れたようで、まるで旅行中のような気分を楽しめるかもしれません。仕事終わりの癒やしの時間に、そんなナチュラルワインの楽しみ方を試してみるのも良さそうです。
「SUPPLY」料理担当の旦那さんとは、もともと友人関係で、食やワインを通して仲良くなっていったそう。ナチュラルワインを通して出会った仲間たちとの交流が、人生を何倍も豊かにしてくれたといいます。
「ナチュラルワインが好きな方ってやさしい人が多い気がします。このワイン、きっと好きじゃない? おもしろい生産者を見つけたよ、あのお店いいワインそろえているよ、なんてワイワイ話しながら、みんなで一緒に飲み比べをしたりする時間は最高です。ワインがなかったら出会えなかったかもしれない人とつながりができたことで、私の視野や興味も広がったと思います」
おいしいだけじゃない、ナチュラルワインの楽しみ方
自分に合ったナチュラルワインに出合うには、まずは小林さんのようなプロに相談することが大切。「初めて飲む人は、まずはお店の人に“飲みやすいオススメの1本”を聞いてみてください。フルーティーで飲みやすいものなどをきっと教えてくれますよ。お酒好きなら“ちょっと変わった1本”を。個性豊かなナチュラルワインには、うまみが強くだしっぽい味がしたり、土の香りが感じられたり、生産者の特徴が色濃く出ているものが多く、毎回、新たな出合いがあります」
色が美しく、ラベルもおしゃれでかわいいものが多いナチュラルワイン。「音楽をジャケ買いして聴くように、気になるラベルで1本選んでみる。そこから、自分の好きな味を探っていくのも楽しいですよ。おいしいワインと出合えたら、その生産地や生産者、使われているブドウの品種や畑などラベルに書いてある情報をメモしておくと、次も探しやすいです。いいなと思ったワインの販売元が扱っている他のワインを追いかけるのも一つの方法。好みのワインと出合いやすいと思います」と小林さん。
ここで一つ豆知識を。フランス語で“酸化防止剤無添加”を意味するのが「SanS Sulfites(サン・シュルフィテ)」という言葉です。ナチュラルワインのほとんどは酸化防止剤無添加ですが、まれに添加されているものもあるので、酸化防止剤が気になる人は、覚えておいてラベルをチェックしてみましょう。
ブドウの栽培方法にも、農薬や肥料をいっさい使用しないビオロジック農法や土壌や生物の動き、月の満ち欠けなどに寄り添うビオディナミ農法などがあります。調べていくうちに地球や宇宙、自然、土地の歴史など、さまざまな奥深い世界にふれることができるのも、ナチュラルワインを楽しむ醍醐味(だいごみ)の一つです。
「グラス1杯のワインで地球が変わります……」というメッセージが書かれたラベルを見つけて、小林さんはハッとしたことがあるそうです。「私たちの日々の食卓は世界とつながっていて、一人一人が食べ方や飲み方を意識することで、地球環境にも影響を与える」。そんな考え方のもと、自然に即したワインを造っているワイナリー「BEAU PAYSAGE(ボー・ペイサージュ)」のワインでした。
このように、ワインの造り手それぞれに哲学やこだわりがあり、知れば知るほど深い楽しみ方ができることがわかります。サスティナブルな社会の実現といった、世界のトレンドを象徴する存在としても、ナチュラルワインはますます注目を集める存在です。
ナチュラルワインに合わせたい、オススメ料理
味に個性があるナチュラルワインは、合わせる料理を見つけるのが難しそうなイメージですが、うま味があってやさしい味わいのものが多いので、実は何にでも合うのだそう。
「イカの塩辛など肝系のものと一緒に食べても、ナチュラルワインだとその生臭さを感じなかったりするので、合わせ方はあまり気にしなくて大丈夫。キムチなどでもおいしいですよ。好きな食べ物といろんなマリアージュを楽しんでほしいです」。夜遅く家に帰って疲れているけれど、おいしいワインを1杯楽しみたい!というときにオススメの、簡単レシピを教えていただきました。
「トマトのマリネ」は、プチトマトを半分に切って、塩と乾燥オレガノをふり、シェリービネガーを回しかけてよく混ぜ合わせればできあがり。「ワインビネガーでもいいですし、レモン汁を絞ったり、何もなければいつもの穀物酢でも」。キッチンにあるものにちょっと手を加えて、パパッと作ってしまうのが小林さん流おつまみです。
「オリーブのマリネ」も、シンプルながら箸が止まらなくなるメニュー。瓶詰のオリーブにつぶしたニンニクを混ぜて、フレッシュな(なければ乾燥の)ローズマリーとタイムをちぎって加え、オリーブオイルとともに合わせるだけ。一晩寝かせて味をなじませれば、立派な酒のおともになります。
まずはおいしく楽しんで、興味が湧いたら、気に入った1本のナチュラルワインの奥深い世界をのぞいてみてください。お気に入りの味に出合えたなら、おいしさ以外の楽しみがあなたの世界をもっと広げてくれるはずです。
Profile
小林希美
ソムリエイタリアン&ナチュラルワインの店「SUPPLY」のソムリエ。アルバイトとして働いた三軒茶屋の「uguisu」でナチュラルワインと出合い、その後ソムリエの資格を取得。2019年に、イタリアン一筋だった旦那さんと「SUPPLY」を開業。遊び心あふれる料理とナチュラルワインのマリアージュが人気。
取材・文/矢本祥子 構成/宮垣歩乃佳(Roaster) 撮影/三佐和隆士
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