日本人のソウルフードともいえる、塩むすび。
「旅するおむすび屋」として日本全国を巡る菅本香菜さんにその魅力を聞くと「塩むすびって、おむすびの中で一番シンプルなもの。だからこそ、素材やつくり方にこだわると格段においしくなるのを実感できるんです」と話します。
そこで今回は、おむすびと各地の食材を知り尽くしている菅本さんから「究極においしい塩むすび」のつくり方を伝授していただくことに。「お米の炊き方や素材選びを、ほんのひと工夫するだけ。皆さんきっと、想像以上のおいしさに驚きますよ」
- おむすびは人をつなぎ、幸せにしてくれる
- おいしい塩むすびの要は「お米・塩・海苔(のり)」選び
- 究極の塩むすびができる、お米の炊き方
- プロ直伝の、おいしく握るポイント
おむすびは人をつなぎ、幸せにしてくれる
日本各地でおむすびを握るワークショップを開催しながら、食べることの楽しさを発信している菅本さん。「材料によって地域ならではの味を表現できますし、日本にしかない食のすばらしさを実感できるのもおむすびのよさ」と話します。
おむすびには具材入りや混ぜごはんでつくるものなど、さまざまな種類がありますが「やっぱり塩むすびが一番おもしろい」と菅本さん。「シンプルなぶん、素材の品種や生産地によって味わいがまったく変わりますし、地域やつくり手の個性もダイレクトに感じられます。具材を入れないからこそ、お米、塩、海苔という日本人にとって親しみ深い素材のおいしさを再確認できるという点でも、奥が深いんです」
一般的に「塩むすび」というと塩とお米のみでつくるイメージですが、菅本さんの話す「塩むすび」には材料として「海苔」が含まれています。それは、おむすびに目覚めたきっかけが関わっているのだとか。
はじまりは『くまもと食べる通信』という食雑誌の副編集長を務めていた頃。「取材した海苔漁師さんのお母さんが、漁師さんがつくった海苔と地元のお米と塩で、おむすびを握ってくださって。一口食べたときに、3つの食材だけでこんなにおいしいごちそうができるなんて!と、衝撃を受けたんです」
これをきっかけに菅本さんは、海苔を巻いた「塩むすび」を握るように。「おいしい海苔を味わうためにおむすびを握る、なんてこともよくありますね」
その後、5年ほど前から「旅するおむすび屋」をスタート。現在は47都道府県を周り、各地の人々とおむすびを握りながら交流を深めています。
おむすびを通して「みんなで一緒に食べる楽しみや大切さを共有したい」という菅本さん。その根底には、自身が拒食症に悩んだ経験がありました。
「食べられない時期が6年間続き、大学に入ってからやっと完治したんです。家族や友人と食事ができるようになったときに、みんなで食卓を囲む時間は人生をすごく豊かにしてくれるし、『食べることは生きるということ』だと実感して。その気持ちをほかの人にも伝えたいと考えていた際に、おむすびと出合いました。おむすびならいつでもどこでも、年齢関係なくつくれますし、『食』に親しんでもらうきっかけにはぴったりだと思ったんです」
そして「全国の皆さんといろいろなおむすびを食べていますが『一番心に残ったのは塩むすびです』と言っていただくことがとても多い」と菅本さん。「一見簡単そうで食べ慣れているからこそ、素材やつくり方にこだわった塩むすびを食べると、予想外のおいしさに驚かれるのかもしれません。“こだわり”といっても難しいことはなく、今日からすぐにトライしていただけるので、家族やお友達ともつくってみてくださいね」
おいしい塩むすびの要は「お米・塩・海苔(のり)」選び
塩むすびはシンプルだからこそ、素材にこだわりたい。そこでまず、菅本さんに塩むすびに最適な材料についてお聞きしました。
まずはお米。菅本さんのお気に入りは、新潟にある創業80年の米店「飯塚商店」で、おむすび用にブレンドしたもの。「おむすびにしたときに一番おいしい配合を一緒に考えていただきました。おむすびは味わいだけではなく、食感も重要。握りたてを一口食べたときに、口の中でほろっとほどける食感が理想なので、もっちり感のある『コシヒカリ』とさらっとした『こしいぶき』を合わせています」
最近はお米屋さんを訪れる人も少ないと思いますが、実は好みや用途を伝えると、ブレンドしてくれるところも多いとか。「お米はそれぞれ特徴があるので食べ比べて自分好みを探してみるのもいいかもしれません。王道の『コシヒカリ』のほか、手に入りやすいものでいうと、あっさりした『ササニシキ』、甘味と粘りが強い『ミルキークイーン』、甘味も粘りもちょうどいい『つや姫』の3つは、味わいに変化が出るので比べてみるとおもしろいですよ」
炊きたてのお米ですぐに握って食べるのが一番ですが、つくってから食べるまでに時間が空いてしまうことも。そんなときは「購入する種類をちょっと気にかけるだけで格段においしさが変わってきます」とのこと。「例えば朝握ってお昼に食べるなら、冷めてもうま味が逃げにくいもっちり感のあるお米、握ってすぐに食べるときは先ほどおすすめしたような口の中でほぐれやすい品種がよく合います」
お米の保存方法については「使うお米の保存状態によってもおむすびのおいしさは変わります。気温が低い冬場は大丈夫ですが、夏場は冷蔵庫で保存すると味が落ちにくくなりますよ」という豆知識も。
そして、塩むすびを握る際に重要なのはお米だけではありません。菅本さんが大好きな海苔と塩のコレクションの一部を見せていただきました。
海苔を選ぶときにもポイントが。「おむすびに海苔を巻いてすぐに食べるときは、収穫する際に一番はじめに網から摘まれる『一番摘み』を選んでみて。海苔は同じ網から数回にわたって収穫されるのですが、最初に摘まれるものは海苔のおいしさが一番詰まっています。香り豊かで柔らかく、歯切れや口どけもよくてお米との相性が最高なんです。ちなみに、巻いてから時間を置いて食べる場合は、ちょっと硬めな三番摘みあたりがおすすめです」
そして塩にも、生産地やつくられる季節による個性があります。
「熱々のごはんでおむすびを握るときは熱でお塩がなじみやすいので、粗めのお塩でもOK。私のお気に入りは4種類入りの『四季の塩』です。ざらっと粗めの塩なので、味わいの違いもわかりやすいですよ。冷めているお米で握る際は塩が溶けにくいので、さらっとした粒子が細かい塩を選んでみてください」
究極の塩むすびができる、お米の炊き方
続いては、塩むすびに合ったお米の炊き方を教えていただきます。
「お米を炊くときは、土鍋が一番!」と菅本さん。土鍋炊きは難しそうなイメージもありますが「炊飯用の土鍋であれば、火加減の調整も必要ないため意外と簡単なんです」
「土でできているので涼しい時期はおひつ代わりにもなりますし、何よりもお米の水分とうま味をしっかり閉じ込めておいしく炊けるのが土鍋のよさ。ふっくらと粒が立って、お米が本来もっている食感や味わいを最大限に引き出してくれます」
それでは、実際に塩むすびのためのごはんを炊いていきましょう。
塩むすびのためのお米の炊き方
1. お米に天然水を加える
お米は、一番はじめに入れた水をよく吸収するので、最初に加える水はおいしい天然水にしましょう。
2. お米を洗う
お米本来の味が落ちないよう、洗うときは3回程度がおすすめ。1回目は天然水で、2回目以降は水道水でOK。
3. お米を天然水で浸水させる
定められた量よりもちょっとだけ少なめに天然水を注いで浸水。お米自体が水分を含んでいるため、水をちょっと少なくすることで柔らかくなりすぎず、口の中でほろっとほぐれる塩むすび用のごはんが炊けます。
4. 冷蔵庫で寝かす
そのまま1時間ほど冷蔵庫の中に入れて浸水させましょう。この浸水の工程をきちんとやっておけば、土鍋はもちろん、炊飯器の「早炊きモード」でもおいしく炊けます。
5. 塩を投入
炊く前に土鍋に塩を加えると、沸点が高くなりごはんがツヤツヤな炊き上がりに。お米3合に対して2つまみくらいを目安にしてください。
6. 土鍋を火にかける
浸水したお米を土鍋に移して、中強火で10分程度。ふたの穴から蒸気が出てきたら火を止めます。うま味を閉じ込めるためにそのまま15〜20分蒸らせばできあがり。
プロ直伝の、おいしく握るポイント
ごはんが炊けたらさっそく塩むすびを握ってみましょう!
①ごはんを湯呑みやお茶碗によそってまな板に並べる
一度湯呑みやお茶碗によそうと丸みが出て形が整い、量も均一に。大きさがそろって見た目もきれいに仕上がります。炊きたてのごはんは熱いため、いったん湯呑みやお茶碗によそってからまな板にのせることで表面温度が下がって、握りやすいという利点も。
②手のひらに水と塩をつける
手のひらに水をつけてから、手のひら全体がざらっとするくらい塩をまぶします。量は、親指と人差し指、中指の3本で取れるくらいの大きめのひとつまみ。手に水をつけすぎるとおむすびがべちゃっとしてしまうので、水分がなくなってきたなと感じたタイミングで水と塩を少しずつつけ足しましょう。
③おむすびを握る
握るときは形を整えるくらいの感覚で「とにかく優しく握ること」。ぎゅっと圧をかけてしまうと、食べたときにお米がほろっとほどけなくなってしまいます。握手しても痛くないくらいの力加減を意識して、お米の粒の間に空気を残すイメージで。
④海苔を巻く
最後に、海苔をくるっと巻いて完成! 海苔を巻くときはつるつるとした面を外側にすると、より海苔の舌触りを感じられます。
「パリッとした海苔の香りとごはんの甘味、塩のうま味が一番おいしく味わえるのは、握りたてのときだけ。その一口目は言葉では表せないほど最高なので、海苔を巻いたらすぐに食べてくださいね」
握った後に長時間持ち歩くなど、衛生面が心配なときはラップを使って握ってもOK。「その場合は塩の味を均一につけるために、お米を炊くときに入れる塩の量を多めにしてみてください。そして握った後にほんの少し塩を振りかければちょうどいいと思います」
さっそくほおばりながら「塩むすびは、当たり前に食べていた素材のおいしさに改めて気づかせてくれますよね」と菅本さん。「食材や握り方にこだわってみると、新たに自分好みの味を見つけたり、行ったことがない地方の魅力を知ることができたりと、さまざまな発見にもつながるはず。そしてやっぱり、みんなで何かを食べる時間っていいですよね。これからもおむすびを通して、その楽しさを伝えていけたらと思います」
Profile
菅本香菜
旅するおむすび屋1991年、福岡県生まれ。 熊本大学卒業後、不動産会社での営業や情報誌『くまもと食べる通信』の副編集長を経て上京。株式会社CAMPFIREでLOCAL・FOODを担当した後「旅するおむすび屋」としての活動をスタート。おむすびを通して各地の魅力や食べることの大切さを伝えている。現在は47都道府県を巡りながら書籍『全国おむすび旅』を制作中。本書は映画化も決定しており、今後の活動にも注目が集まっている。
Twitter:https://twitter.com/Kana314
Instagram: https://www.instagram.com/kana.omusubi/
取材・文/金城和子 構成/田中朝子(Roaster) 撮影/藤井由依
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