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コーヒーを飲むだけじゃない 非日常へと旅する純喫茶入門

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純喫茶は コーヒー一杯で入館できる 昭和博物館です

仕事帰りや休日のお出かけの合間に、コーヒーを飲んでほっと一息つける時間は、何ものにも代えがたい価値があるもの。その場所が純喫茶ならば、より特別な非日常感が味わえるかもしれません。

おもに昭和の時代に生まれ、現在も当時のままの姿で街にひっそりとたたずむ純喫茶には、レトロな内装や独特のメニューなど、今どきのカフェにはない魅力がいっぱい。今回は「なんだか敷居が高そう」と一歩を踏み出せずにいる人のために、純喫茶愛好家の難波里奈さんを水先案内人にお招きして、純喫茶の魅力と楽しみ方を探ってみました。

  1. こだわりにあふれる純喫茶の魅力
  2. 初めてならここを見て。純喫茶での注目ポイント
  3. 純喫茶でしか味わえない独特のメニューとは?
  4. お店の備品にも注目して、コレクションする楽しみを

こだわりにあふれる純喫茶の魅力

そもそも「純喫茶」とは、どのようなお店のことをいうのでしょうか。「元来はアルコールを提供しない喫茶店を指す言葉だったようですが、現在は時代の流れでアルコールがメニューにあったとしても、昭和の時代から営業していて、外観や内装やメニューなど、すべてにおいて歴史とお店をつくった方の好みやこだわりが感じられる喫茶店のことを純喫茶と呼んでいます」

純喫茶は全国各地にありますが、東京なら神保町のような古書店街や学生街、浅草のような昔からの繁華街や観光地など、歴史があって人が集まる場所に多くあるそうです。

店内の雰囲気に溶け込む難波さん

難波さん自身が純喫茶に足を運ぶようになったのは、昭和の古着や雑貨が好きで集め出したことがきっかけ。「もともとピカピカの新品のものよりは、誰かが使ってきた歴史や趣のあるものが好きで。自分の部屋を昭和っぽくしたいと思ったんですが、なかなか難しい。それだったら昭和の雰囲気が最初から完璧な状態で残る純喫茶を自分の部屋代わりにして、洋服を着替えるみたいに気分やシチュエーションに合わせて楽しめばいいと思ったんです」

コーヒー

実際、純喫茶の魅力とはコーヒーを飲むだけではなく、そこにしかない歴史やこだわりを第二の部屋感覚で気軽に体感できることだといいます。

「純喫茶は個人経営が多いので、お店にあるものすべてに店主の好みやこだわりがぎゅっと詰まっているんです。昔のものって作りがいいので、椅子でもドアでも何でも当時のものを修理しながら使い続けているお店も多いです。そんな歴史が真空パックされた博物館みたいな空間を、コーヒー代を払えば鑑賞できて、実際に触れたり、座ったり、さらにマスターや常連さんとのおしゃべりも楽しめる。私にとって純喫茶は『コーヒー一杯で入れる昭和博物館』なんです」

レストランとは違って毎日ひとりでも気軽に、朝でも昼でも夜でも、思い立ったらいつでも立ち寄れる。純喫茶は、日常にいちばん近い非日常空間といえそうです。

国立駅前ロージナ茶房

初めてならここを見て。純喫茶での注目ポイント

純喫茶=昭和博物館として、時空トリップを楽しんでいるという難波さん。お店を訪れた際は座席でゆっくりくつろぐのもいいですが、せっかくならほかのお客様の邪魔にならない程度に視線を動かして店内を隅々まで余すことなく鑑賞すれば、よりお店への愛着も深まって非日常感が楽しめるといいます。

カメラで撮影

そこで今回はロージナ茶房を舞台にして、難波さんに純喫茶空間でのチェックポイントを教えてもらいました。

まず、入店時にチェックしたいのが外観。「外観では建物や窓の造り、看板があればそのデザインや色合いに注目を。そして扉にも、その店ならではの個性やこだわりが表現されていて楽しいので見逃さないでほしいです!」

ドアの装飾

そして店内では椅子やテーブル、照明、天井・壁・窓・パーテーションのデザイン、飾られた絵や棚の上の飾り物など、細かなところまでチェックしてみましょう。

シャンデリア&シェードランプ

純喫茶の椅子は、そのお店のカラーを特徴づけるトレードマーク。例えば、赤いビロード張りのソファがあるお店は閑静なムードが漂っていたり、木製の椅子があるお店にはおしゃべり好きなお客さんが集まっていたりと、お店全体の雰囲気もお客さんのたたずまいも、微妙に違うといいます。

ロージナ茶房の椅子

「壁が漆喰(しっくい)なのか木なのかタイルなのか、材質ひとつでもお店の雰囲気はガラリと変わります。食器やカトラリー、メニューやレシートにもお店の個性が表れているので、ひとりで行っても楽しめるポイントが盛りだくさんです」

エントランス&ショーウインドウ

昭和の時代から現在まで何十年もの歳月を経て、独自の美学やこだわりを貫いてきた純喫茶には、歴史を感じさせる見どころや一度訪れただけでは気づかない魅惑的なディテールがいっぱい。「ひとくちにレトロといっても、名曲喫茶のように静かでこじんまりしたお店もあれば、お城みたいにゴージャスなお店もあって、細部までこだわりがちりばめられているので、同じお店でも訪れるたびに発見があるんです」。ノスタルジックな郷愁と新しいときめきが常にある。それが今でも純喫茶が老若男女に愛される理由なのかもしれません。

掛け時計

純喫茶でしか味わえない独特のメニューとは?

さらに純喫茶の大きな魅力が、クリームソーダ、フルーツパフェ、ナポリタン、ピラフ、ミートソーススパゲティなど、他ではあまり味わえない懐かしいメニューがそろうこと。

「今の時代いろんなジャンルの専門店がありますが、こういうメニューは純喫茶でしか食べられないことが多いですよね。純喫茶のメニューも内装と一緒で、お店の人のこだわりが詰まっている。ひとくちにナポリタンといっても味も見た目も、使っている器や盛り付けもお店によって全然違うから、いくら食べても飽きないんです」

喫茶メニュー

純喫茶はドリンクだけでも独創的なメニューが豊富にそろっているのが魅力。カフェではいつもコーヒーを頼むという人も、純喫茶では気分を変えてふだんなら頼まないメニューをオーダーしてみると、新たな楽しみが広がるはずです。

「色がカラフルできれいだったり、レモンやホイップが飾られていたり。おいしいだけでなく目でも楽しめるメニューが多いので、私はそのお店の椅子の色やその日の洋服の色に合わせて選ぶことも多いですね」。想像するだけでうっとり、心ときめかずにいられない、難波さんらしい楽しみ方です。

レモンスカッシュ、グレナデンソーダ、ミルクセーキ

最近はSNSで純喫茶の写真がたくさんアップされているので、メニュー選びに迷ったらSNSを参考にするのも今どきで楽しいと、難波さんはいいます。「何度か通って慣れてきたら頼んだことのないメニューに挑戦して、自分だけのお気に入りを探すのがおすすめ。お店の方に『おすすめは何ですか?』と聞いてみるのも、お話をするきっかけになるのでいいかもしれません」

ちなみに、さまざまな純喫茶のクリームソーダを紹介した『クリームソーダ純喫茶めぐり』という著書もある難波さん。「例えば、神保町の『さぼうる』はソーダの色が7色から選べたり、藤沢の『ジュリアン』は中が二つに分かれた特注グラスを使った2色のクリームソーダがあったり。定番メニューほど奥が深いので、ひとつのメニューを掘り下げて純喫茶をめぐってみると、より楽しみが深まります」

Recommended Item!

ミートパスタ

ミートソースパスタ/ロージナ茶房 ¥980(税込)

本格的な洋食メニューの中でも、ナポリタンと人気を二分するミートソースパスタ。「ロージナ茶房では、貝殻デザインのお皿に盛られてくるのもつい頼みたくなるポイントです。通常サイズで男性でも食べきれないぐらいのボリュームなので、何品かをみんなでシェアして楽しむのもおすすめです」

お店の備品にも注目して、コレクションする楽しみを

マッチ

コースターや紙ナプキン、マッチやショップカードなど、お店の備品にもロゴが入っていたり、オリジナルのこだわりが配されていたりすることが多い純喫茶。難波さんは消耗品であれば、お店の方に許可を取り、自分が使用したそれらを大事に持ち帰って、コレクションしています。

「マッチは最近は置いているお店が少なくなりましたが、私が集め出した頃は普通にあって。今でいうショップカード代わりだと思うんですけど、コーヒー一杯400円とかでマッチも持って帰っていいんですか!?って(笑)。そうやって集めたマッチを眺めながら、お店の様子を思い出すのも楽しいです」

多忙な日々の中で、今も毎日どこかしらの純喫茶に足を運んでいるという難波さん。「『今日は静かなお店で本を読もう』とか『今日は疲れたからあそこのパフェを食べよう』とか、その時々の気分に合う純喫茶で過ごす時間は、自分をリセットできる大切なひととき。純喫茶は日常からふっと抜け出せる、家とはまた違ったくつろぎの場所なんです」

ノスタルジックな魅惑のインテリアとメニューで、非日常へのトリップが楽しめる。そんな純喫茶の扉をあなたも開いてみませんか?

パスタを食べる難波さん

スポット情報

純喫茶スポット情報

ロージナ茶房 東京都国立市中1-9-42 042-575-4074 11:00~21:00 無休

国立の駅前にある「ロージナ茶房」。創業は昭和28年、画家だった初代マスターが内装から椅子や照明までデザインを手掛けた空間は、現在もほぼ当時のままで時間が止まったような濃密な空気が漂う。親子三代で通うご近所さんも多く、ボリューム満点の洋食メニューが人気。

Profile

難波里奈
純喫茶愛好家

東京喫茶店研究所二代目所長。会社員のかたわら、仕事帰りや休日に純喫茶を訪ね、その魅力をブログ「純喫茶コレクション」やSNS、メディアを通じて発信。『純喫茶とあまいもの 京都編』『なないろのクリームソーダ』、最新著書として、10年前の単行本を大幅に加筆・修正して文庫化した『純喫茶コレクション』など、著書多数。カプセルトイ「純喫茶ミニチュアコレクション」などの監修も手掛ける。

Instagram:https://www.instagram.com/retrokissa2017/

取材・文/井口啓子 編集/柳瀬 礼(Roaster) 撮影/細谷謙介

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