食事やお出掛けに、さりげなく着物をまとえるようになりたい――という憧れはあるけれど、着付けやお手入れが大変なイメージだったり、着るうえでのルールが気になったり、そもそも自分好みのかわいいデザインはあるのだろうか……と一歩を踏み出せずにいる人は多いはず。
でも、着物スタイリストの大川枝里子さんは「着物は難しいわけでも、大変でもない。もともと日本人は着物を日常着として着ていたのですから、もっと自由に自分の感性で着ていいものなんです」と話します。
そこで今回は大川さんに、日々の中でちょっとした気分転換やリフレッシュ時間につながるような、現代に合った着物の楽しみ方を教えていただきました。
- 着物との出合いは、古着屋さんのワゴン!?
- 驚くほどモダン!なテキスタイルの魅力
- 遊びの効いた帯をスパイスに
- 小物は直感を大切に、和洋ミックスで
着物との出合いは、古着屋さんのワゴン!?
現代の街並みやインテリアにさらりと溶け込む、モダンで洗練された着物のスタイリングに定評のある大川さん。やはり、昔から着物が好きだったのかと尋ねてみると、「もともとは私も成人式にレンタルして着物を着た、くらいの知識と経験しかなくて。着物に特別強い興味があったわけではないんです」と、意外すぎる答えが返ってきました。
そんな大川さんが初めて着物に興味をもったのは、15年ほど前のこと。「もともと古着が好きだったのですが、原宿シカゴという古着屋さんのワゴンですごくかわいい着物をみつけたんです。そのときは単純にテキスタイルにひかれて、手頃な値段だし買っちゃえって衝動買いしたのですが、周りに着物に詳しい人もいないし、どう着ればいいのかわからなくて……」
しかし、その後も古着店や骨董(こっとう)市で、頻繁に「これは!」と心を射抜かれる着物と遭遇。つい買い集めるうちに、かわいいから実際に着てみたいと本や動画を参考に見よう見まねで着付けをし、のめり込んでいったと言います。
「一番最初に、自分好みのデザインで、かつ気軽に買える値段の着物に出合ったせいか、着物に対してハードルの高さを感じたことは一度もないんです。それに、よく着物は苦しいといわれますが、それって成人式の着付けのイメージがあるのだと思います。振り袖だと普段着よりもしっかりと補正をするし、着崩れないように紐をきつく締めることが多いのですが、普段着ならもっとラクに着ていい。お手入れも毎回クリーニングに出す必要はなくて、私の場合、着終わったら陰干しで一日通して汗を抜いて、染みがついていなかったら、そのままアイロンをかけてしまいます」
構えすぎず、洋服と同じ感覚で自分が着たいと思うものを着ることが、着物を楽しむ一番の秘訣(ひけつ)だと、大川さんは言います。
驚くほどモダン!なテキスタイルの魅力
実際、現代の洋服に慣れた目で見ても、着物にはあっと驚くようなモダンで遊びの効いたデザインのものが少なくありません。日本古来の美学や伝統が宿ったテキスタイルの魅力と、初心者にぴったりな着物の選び方とは? 大川さんに教えてもらいましょう。
「着物というと多くの人は、振り袖のようなゴージャスで華やかなものを想像されますが、本来は日常着。遊びの効いた素敵なものもたくさんあるんです。着物の文様って、花鳥風月といった自然や暦行事にちなんだものなど、本当にたくさんのモチーフがあって、そこには移ろいゆく季節を慈しむ、日本人ならではの美学が宿っている。同じ文様でも写実的なものもあれば、デザイン化されたものなど膨大なバリエーションがあって、見ているだけで楽しいです。特に女性の社会進出が進んだ大正から昭和初期のアンティークのものはデザインが大胆で、化学染料が普及した時期でもあるので、はっとするような鮮やかな色彩のものが多い。昔からある古典柄でも、今見てもぜんぜん古くさくない。むしろこんなにおしゃれなんだって、感動しますよ」
柄×柄の遊びコーデも、浮くことなくスタイリッシュに決まるのは、クラシカルな着物のポテンシャルゆえなのです。
実際に着物を選ぶ際のポイントはというと、「初めての一着なら、着付けがしやすいように、自分の身長にちゃんと合った着物を購入するのがベター。自分の身長±5cmの身丈(着物の衿(えり)から裾までの全長)のものを探してみてください。それから、色合いをモノトーンや無地にすれば、帯で遊べるのでアレンジが効きますし、気軽に洗えるポリエステルや木綿素材のものであれば汚れた際のお手入れもラクです」
ショップは、買いやすい価格帯のアンティークが豊富にそろう、東京・代田橋&大塚の着物店「キモノ葉月」がおすすめだそう。「お店の方も気さくで親切なので、着物デビューにぴったりだと思います。数万円あればトータルでそろいますが、いきなり全部買うのが大変なら、長襦袢(ながじゅばん)の代わりにタートルネックを取り入れたり、着物をワンピース感覚で短く着付けて、足元は草履の代わりにブーツやハイカットのスニーカーを合わせたりしてもかわいいですよ」
遊びの効いた帯をスパイスに
派手すぎる着物コーディネートに抵抗がある人は、帯などのポイントで遊びを効かせると、粋であか抜けて見えるそう。大川さんも帯を主役にした着こなしが好きで、大胆な柄や凝った刺しゅうの帯と出合うと、つい手に取ってしまうとか。
「特にアンティークやビンテージものは凝ったデザインのものが多いんです。女性ものはもちろん、男性ものの長襦袢にもユニークな柄が多く、帯に仕立て直されることもしばしば。そんな帯を黒などのシンプルな着物に合わせれば、渋くて遊び心のあるコーディネートが楽しめますよ」
大川さんのたくさんのコレクションの中には、ほとんど締めたことがない帯もあるけれど、アートのように眺めるだけでもうっとり幸せになれるそう。そんな非日常性も、着物の魅力です。
「日常的に着物を着ている私にとっても、着物をまとうという行為は特別で気持ちのいいこと。所作も自然と美しくなるので優雅な気分になれるし、街で声を掛けられたり、お店でていねいに対応してもらえたりすると、特別な気持ちになります」
小物は直感を大切に、和洋ミックスで
小物も和装用にこだわらず、洋物や現代の作家物を合わせるのが、大川さん流。淡いイエローの着物に華やかな袋帯を合わせたコーディネートには、シェル素材のクラッチバッグをチョイス。「これは古着屋さんで買った海外のビンテージですが、直感的に着物に合うと思って。合わせてみたら、上品なシェルの素材感がソフトな色合いの着物とぴったりでした」
自由な発想で着物を楽しむ大川さんを見ていると、こんなに素敵なものがある国で暮らしているのに、それを着ないでいるなんてもったいないとウズウズしてきます。大事なのは、しっかり準備することではなく、とにかく着てみること。そうすれば、理屈ではなく着物の魅力が実感できるはずです。
着物を着るようになって、日本の四季や自然、伝統行事を意識するようになったのも、大きな変化だったと話します。「着物って、植物や動物、行事やお祝い事にちなんだものなど、本当にいろんな文様があるので、街を歩いていて、この花はあの着物の柄の花だ!っていうのをみつけるとうれしいし、中秋の名月だからお月見の模様の帯を締めようとか、以前なら気づかずに過ぎていた季節の行事を敏感に感じられるようになりました」
着物特有のルールやマナーも面倒だと敬遠せず、受け入れて楽しむ。着物を着ることでそんな心の豊かさを育めることも、多忙な日々を過ごす現代人には最高の癒やしであり、ぜいたくなのかもしれません。
Profile
大川枝里子
着物スタイリスト着物スタイリスト・着付け師として雑誌や広告を中心に活躍。暮らしの中で受け継がれてきた着物や文化、風習に関する執筆やディレクションも手掛ける。また、ポリエステル着物「東レシルック®きもの」で有名な着物メーカー・万葉寺井株式会社とのコラボレーション着物の商品開発も手がける。
HP:https://kifkif.me/index.php
Instagram:https://www.instagram.com/kifkif.me/
取材・文/井口啓子 編集/田中朝子(Roaster) 撮影/藤井由依(Roaster)
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