「インテリアでONとOFFを切り替えて、心地よく過ごせる空間をつくることが今の私のテーマです」。心まで温まるチャイティーのような香りが広がる家で、“癒やしの部屋”のつくり方を教えてくれたのは、インテリアスタイリストのさかのまどかさん。
さかのさんが考える居心地のいい家とは「好きなものを自由に置いて、帰ったときに気持ちがクリアになるパワースポットのような場所」だといいます。そこにいるだけで気分が上がったり、心を落ち着かせてくれる家。そんな家で毎日を過ごせたら、あなたの暮らしがもっと楽しくなると思いませんか?
- 家の中に自分の軸に戻れる場所をつくる
- 憧れと心地よい余白を知る
- この時代に必要な「気分を切り替えるインテリア」
- 気負わず、部屋の変化をゆっくり楽しむ
家の中に自分の軸に戻れる場所をつくる
豊かな自然に囲まれ、天気が良い日は窓から富士山が見えるマンションの一室。
さかのさんにとって「ようやくパワースポットになってきた」というご自宅は、彼女と夫が集めたヴィンテージ家具と植物、個性的でかわいい雑貨であふれています。特にお気に入りだという作業机を“私の祭壇”とたとえるさかのさんは「この机のように、見るだけで心がパッと明るくなる場所をつくることが大事」だと語ります。「“癒やしの部屋”をつくるには、きれいに整えるんじゃなくて『ここがすごく好き』っていう場所をつくるといいです。暮らしの中で好きなものが目に入ると、そのたびに自分の軸に戻る感じがする。ちょっとした場所でいいので、花を飾るとかアクセサリーを並べるとか、自分のためだけのスペースをつくってみてください」
「好きなものを集めるのがコツ」とはいっても、自分は何が好きなのかがわからない人も多いはず。実は、さかのさん自身も以前は自分の好みがわかっていなかったといいます。
「スタイリストになる前に、部屋中のものを全部出して整理をしたことがあるんです。そしたら、黒いワイヤーを使った小物と茶色の紙袋がめちゃくちゃ出てきて。自覚はまったくなかったんですけど集めていたみたいです(笑)。それで『あ、私ってこれが好きなんだ』って気がついた。そういうふうに自分の「好き」を見つけていくのが、居心地のいい部屋づくりの第一歩だと思います」
見つけた「好き」のかけらは、日々暮らす空間に集めることで、ふと目にしたときに「私は何を良いと思っているか」の確認になります。自分の考え方を自ら大事にできる、うれしいインテリアのコツです。
憧れと心地よい余白を知る
さかのさんのインテリア術は聞けば聞くほど「自分を知る」ことがポイント。仕事でも、そこに住む具体的な人物を思い描くそうで「住む人のイメージを明確にするとインテリアの軸がぶれない」のだそう。つまり“自分のイメージ”を明確にできたら、自分の家のインテリアにも悩まなくなりそうですが……「自分を知る」って難しい。
そんな人は「憧れの人の家」をイメージしてみて、とさかのさんは続けます。「一般の方の家をスタイリングするときは、その人自身の好みだけじゃなくて、憧れている人物も聞くようにしています。何から始めていいかわからない人は、憧れの人が住んでいそうな家のイメージを集めてみてください」。等身大よりもちょっとだけ背伸びした部屋が、暮らすうちにその人らしさになっていくはず。今の自分がわからないなら、“憧れ”を自分らしさにしていけばよいのです。
さらに、「好きなものを集めた後は引き算が大事」とさかのさん。「実は服のスタイリングではみんなやっていることなんです。いろいろ試して今のバランスを自然に学んでいるんですが、インテリアは服に比べて練習する機会が少ないので難しいと思われているのかもしれません。物が少ない方がいい人もいれば、私の家くらい物に囲まれている方が落ち着く人もいる。置いたり取ったりしてみて、自分なりの心地よい余白を見つけてみてください」
自分が好きなものは何か、憧れているものは何か、心地よいと感じる余白はどんなものか……。私を癒やすインテリアについて考えることは、まるで自分探しの旅のようです。
この時代に必要な「気分を切り替えるインテリア」
テレワークが多くなったことで「ONとOFFの気分をうまく切り替えてくれるインテリア」を求める人が増えているそう。スタイリストの仕事を通して、さかのさんが見つけたいくつかの答えを教えてもらいました。
まず、ひとつ目は“香りのインテリア”。「どうやったら同じ部屋でも気分を変えられるのかを考えた末、フレグランスをつくる友人と香りのワークショップを始めました。香りは嗅ぐだけでリラックスできるし、気分も変わるので、ぜひインテリアとして取り入れてほしくて。私自身も、寝る1〜2時間前にはアロマオイルをたいて、香りに包まれながらぼーっと本を読んだりしています。キャンドルやお香の炎は、見ているだけでも癒やされる気がします」
「あとは、模様替えを意識的にするのもおすすめ」とのこと。ラグやクッション、シーツなどのファブリック類は季節ごとに入れ替えて、時季に合ったインテリアを楽しむのだそうです。
「カーテンも季節によって色を変えます。夏はブルー系で涼しげにして、冬は赤など温かい色を。このフランスのカーテンは気に入っていて4〜5色もっているので季節ごとに変えています。カーテンとしての機能はあまりないんですけど、透ける見た目が美しくてどの季節も癒やされるんです」
気負わず、部屋の変化をゆっくり楽しむ
好きなものだけを集めた祭壇的スペースをつくって気分を上げ、1日の中では香りで、1年を通しては模様替えで気分のスイッチもコントロールできれば、家があなたにとっての癒やしの場所になってくれるはず。さかのさんからの最後のアドバイスは「インテリアを考えたり変えたりすること自体を、もっとゆったり楽しんで」ということ。
「以前、ニュージーランドに留学をしたとき、ホストファミリーの家が壁紙を変えている途中だったんです。1年住んでいる間に少しずつ張り替えていたんですが、結局1年じゃ終わらなかった(笑)。でもそれくらいのスタンスがいいなと思って。日本人は真面目だからか、インテリアに関してもちゃんとやらなきゃ!と思いがちですが、そんなに真面目に考えなくていいんじゃない?って思います。仕事みたいに納期があるわけじゃないので、壁の色が変わっていくのをゆっくり楽しむくらいのゆるさでいいと思うんです」
住みながら、家が変化していく感じを許容する。それがインテリアの心地よい楽しみ方なのかもしれません。少しずつ、暮らしながら、あなたのためのパワースポットになる家をつくってみてはいかがでしょうか。
Profile
さかのまどか
インテリアスタイリスト雑誌・広告などのメディアから商業施設のディスプレイまで幅広く活躍するインテリアスタイリスト。インテリアショップでのコーディネート、バイヤー、マネジメントの経験を生かしてスタイリストとして独立。アンティークやハンドクラフト、グリーンを取り入れたスタイリングを得意としている。
(HP)http://coryo.co/
(IG)https://www.instagram.com/coryo.co/
取材・文/赤木百(Roaster) 撮影/藤井由依(Roaster)
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