心身ともに疲れているはずなのに、夜うまく寝つけなくて、翌朝もすっきり目覚められず、日中も頭がぼーっとしたり、体がだるかったり。漠然とした不調を抱えている人も多いのでは?
その改善策として、お風呂と眠りの専門家の小林麻利子さんは、まずは「お風呂の入り方」を見直すことを提案しています。「入浴と睡眠は常にセットであるもの。眠りにつながる最適な入浴法をマスターすれば、快眠グッズに頼らずとも、今晩からぐっすり眠れるはずですよ」。そこで今回は、お風呂時間をフルに楽しみながら心地よい眠りへと誘う、入浴ルールを伝授していただきました。
- 眠れない私を変えた、入浴の驚きの効果
- スムーズに眠りにつける、入浴の基本3ルール
- ワンランク上の眠りを導く “マインド風呂ネス” のススメ
- 睡眠への流れを止めない、お風呂上がりルーティン
眠れない私を変えた、入浴の驚きの効果
お風呂と眠りの専門家として、これまで多くの人の睡眠のお悩みを、入浴指導によって解決してきた小林さん。実は、ご本人もかつてはうまく眠ることができず、体調を崩した経験があるそう。
「20代の頃はメーカー勤務のバリキャリで。お風呂はシャワーでさっと済ましてベッドに倒れ込むけれど、熟睡できないまま朝を迎える……といった毎日でした。そんなある日、試しに湯船にゆっくりつかってみたら、その晩は驚くほどよく眠れたんです。翌朝もすっきりと起きられたので、その日の晩もちゃんとお風呂に入って……ということを繰り返したら、4日目の朝に幸福感が湧き上がってきたんです! 心身ともに生まれ変わった!と実感しました」
そんな経験からお風呂の魅力に目覚め、入浴の効果などを科学的に勉強する中で、入浴が睡眠につながることを確認できたという小林さん。その理由は、おもにふたつあるといいます。
ひとつは、入浴によって、眠気を誘う体内温度の変化が起きるため。「人間の体は、深部体温(体の奥の体温)が下がると眠気が起こるようにできています。ところが、現代人は運動不足などで日中も深部体温が低いままの人が多い。そこで、お風呂で深部体温を一時的に上昇させてあげると、ちょうど寝る頃に体温が下がって、眠気を起こすことができるとされています」
もうひとつは、入浴のリラックス効果で副交感神経の働きが高まるため。「うまく眠れない人は、体の働きを調整する自律神経のバランスが乱れていることが多いんです。自律神経には、体の働きを促す交感神経と、体を休ませる副交感神経があるのですが、うまく眠りにつくためには副交感神経の働きを高めてあげるといい。副交感神経は心身がリラックスした状態でよく働くので、ゆっくりお風呂に入ることでスムーズに眠りにつけるんです」
毎日きちんとお風呂に入ってしっかり眠れるようになると、自律神経が整ってきて、心身ともにもっと健康になっていくはず。家の中で手軽に実践できるので、忙しい人にはうってつけの健康習慣といえそうです。「お風呂は、健康や癒やしにつながる日本ならではの最高のツール。活用しない手はありませんよ!」
スムーズに眠りにつける、入浴の基本3ルール
それでは、熟睡へとつながる入浴ルールとは、具体的にどんなものなのでしょうか。小林さんにレクチャーしてもらいましょう。
1 湯船につかる前に髪を洗う
「湯船につかる前に、洗髪して血行を促し全身を温めておくことで、温熱作用が高まります。髪を洗う際は、頭皮をしっかりマッサージするとより血行がアップ。頭皮血流が良いと、入浴後の脳の深部体温の低下が促され、眠りの質も上がります。ちなみに寒い時期はお風呂場に入る前に、一度床にシャワーの温水を当ててバスルーム全体を暖めておくと、寒さが和らぐし、立ち込めた湯気でミストサウナのような雰囲気も楽しめますよ」
2 40℃のお湯に15分間つかる
「40℃のお湯に15分間つかると、効率よく体内温度を上げることができます。40℃以下だと体内温度が上がるのに時間がかかりすぎるし、42℃以上になると血圧が上がって眠気を妨げてしまうので注意。体が冷えていたり汗をかきにくかったりする人は、さらに5分プラスして20分でもOKです。15分間持続してつかるのが理想的ですが、しんどければ2回に分けてもいいですよ」
3 首までしっかりつかる「完全浴」をする
「全身しっかりと温まることで、深い眠りにつながります。まずは最初の5分間、首までお湯につかる『完全浴』でしっかりと温まります。残りの10分間はリラックスタイム。バスタブの縁に頭をのせて首や肩まわりを脱力させ、体を浮かせる感覚で深い呼吸を繰り返すと、全身でリラックスを感じられます」
入浴するタイミングにも注意。入浴効果をうまく睡眠につなげるには、ベッドに入る1時間前にお風呂から上がるのがベスト。間が空きすぎると入浴効果が途切れてしまうとか。逆に、今日は時間がないからさっとつかるだけにしようという場合は、寝る直前に入るとよいそうです。
ワンランク上の眠りを導く“マインド風呂ネス”のススメ
入浴をスムーズに睡眠につなげるには、五感からリラックスさせることも大切。中でもいちばん癒やし効果が高いのが「嗅覚」だそう。「香りを楽しむバスアイテムはいろいろありますが、私はアロマがおすすめです。ただ精油そのものだと香りが飛びやすいので、精油が配合されたバスオイルや、ハーブの入った入浴剤などがいいと思います」
入浴時には照明を暗くして「視覚」を休ませることも、睡眠のためには有益。「照明の光やブルーライトが目に入ると、メラトニンという睡眠ホルモンの分泌が遮られてしまうんです。なので入浴中はバスルームの照明をつけないか、目にやさしい間接照明だけにしてみてください」
また、お湯につかりながら音楽を聴いて「聴覚」から癒やされるのもおすすめ。「自分が好きでリラックスできるものならどんな音楽でもいいですが、あまりに刺激の強いものは避けて。最近は湯船に沈めることができるスピーカーもあります。音の反響が体に心地よく伝わってきて、全身で音楽を楽しめますよ」
さらにワンランク上の睡眠を目指したい人に、試してほしいのが「マインド風呂ネス」。心理学の国家資格である公認心理師を所有する小林さんならではの、「マインドフルネス」と「お風呂」を組み合わせた、メンタルケアにつながる“小林式入浴法”です。
「人間って無心になってリラックスしようとしても、いろんなことが頭に浮かんで、なかなか真にリラックスはできないもの。でも、目の前にある、なにかひとつのものに意識を向けることで、一種の瞑想状態に入ることができます。その結果、深いリラクゼーションを得られるんです」
意識を向ける対象は、音楽でも、シャンプーの香りでも、なんでもOK。「例えば、今日は水の音に集中しようと思って入浴していると、チャプンと水が鳴る音や排水口にお湯がゴボゴボッと入っていく音でさえ、心地よくなってくるんですよ」
お風呂は、裸で心と体に向き合える密室なので、こういったメンタルケアには最適な空間だそう。「ほかには、自己肯定感を高めるために『今日は昨日より肌ツヤがよかった!』とか『仕事でいいプレゼンができて最高!』とか、今日あった良かったことを探し、言葉に出してアウトプットして、耳からインプットする方法もおすすめ。部屋でするにはちょっと勇気がいりますが、お風呂だと意外と抵抗なくできる。気持ちが前向きになってくるうえに、ストレス解消にもなるので、だまされたと思ってぜひ試してください!」
睡眠への流れを止めない、お風呂上がりルーティン
心地よい眠りのためには、お風呂でつくり上げた最高の状態をキープしたまま、ベッドに入ることが重要。そのために小林さんが、お風呂上がりに実践していることも教えてもらいました。
「お風呂で上昇した体温をベッドに入る直前まで温存するため、お風呂上がりはとにかく体を冷やさないことが鉄則! 体の放熱は足の甲から進むので、どこよりもまず足をカバーするのが大事です。靴下もいいけれど、私のおすすめは『UCHINO』のルームシューズです」
そして、お風呂から上がったら、ベッドに入るまではできるだけ何もしないのが理想。「髪の毛をさっと乾かして、お肌のお手入れだけしたらすぐベッドに入れるように、仕事や家事も入浴前に済ませておくといいですね。照明も最小限の明かりのみにして、入浴から睡眠へとつながる流れを遮断しないようにすると、スムーズに眠りにつけますよ」
一見あまり関係がないように見えて、実は深くつながっている、お風呂と眠り。どちらも日々なんとなく済ませているという人は、少しこだわってみるだけで、人生の幸福度は格段に上がります。最高の眠りのために、明日の自分のために。あなたもさっそく今晩から始めてみませんか?
Profile
小林麻利子
お風呂と眠りの専門家SleepLIVE株式会社代表取締役。公認心理師。「美は自律神経を整えることから」をモットーに、生活習慣改善サロン「Flura」を開業。最新のデータや研究をもとに、睡眠や入浴、運動など日々のルーティンを見直すことでキレイをかなえる「うっとり美容」を指導。これまでに2,000人以上の女性のさまざまな悩みを解決。『入浴の質が睡眠を決める』(カンゼン)、『熟睡の練習帳』(ジービー)など著書多数。
Blog:https://ameblo.jp/mariko-kobayashi/
Instagram:https://www.instagram.com/marikokobayashi.flura/?hl=ja
取材・文/井口啓子 編集/乾 純子(Roaster) 撮影/藤井由依(Roaster)
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