仕事帰りや休日のお出かけの合間に、コーヒーを飲んでほっと一息つける時間は、何ものにも代えがたい価値があるもの。その場所が純喫茶ならば、より特別な非日常感が味わえるかもしれません。
おもに昭和の時代に生まれ、現在も当時のままの姿で街にひっそりとたたずむ純喫茶には、レトロな内装や独特のメニューなど、今どきのカフェにはない魅力がいっぱい。今回は「なんだか敷居が高そう」と一歩を踏み出せずにいる人のために、純喫茶愛好家の難波里奈さんを水先案内人にお招きして、純喫茶の魅力と楽しみ方を探ってみました。
- こだわりにあふれる純喫茶の魅力
- 初めてならここを見て。純喫茶での注目ポイント
- 純喫茶でしか味わえない独特のメニューとは?
- お店の備品にも注目して、コレクションする楽しみを
こだわりにあふれる純喫茶の魅力
そもそも「純喫茶」とは、どのようなお店のことをいうのでしょうか。「元来はアルコールを提供しない喫茶店を指す言葉だったようですが、現在は時代の流れでアルコールがメニューにあったとしても、昭和の時代から営業していて、外観や内装やメニューなど、すべてにおいて歴史とお店をつくった方の好みやこだわりが感じられる喫茶店のことを純喫茶と呼んでいます」
純喫茶は全国各地にありますが、東京なら神保町のような古書店街や学生街、浅草のような昔からの繁華街や観光地など、歴史があって人が集まる場所に多くあるそうです。
難波さん自身が純喫茶に足を運ぶようになったのは、昭和の古着や雑貨が好きで集め出したことがきっかけ。「もともとピカピカの新品のものよりは、誰かが使ってきた歴史や趣のあるものが好きで。自分の部屋を昭和っぽくしたいと思ったんですが、なかなか難しい。それだったら昭和の雰囲気が最初から完璧な状態で残る純喫茶を自分の部屋代わりにして、洋服を着替えるみたいに気分やシチュエーションに合わせて楽しめばいいと思ったんです」
実際、純喫茶の魅力とはコーヒーを飲むだけではなく、そこにしかない歴史やこだわりを第二の部屋感覚で気軽に体感できることだといいます。
「純喫茶は個人経営が多いので、お店にあるものすべてに店主の好みやこだわりがぎゅっと詰まっているんです。昔のものって作りがいいので、椅子でもドアでも何でも当時のものを修理しながら使い続けているお店も多いです。そんな歴史が真空パックされた博物館みたいな空間を、コーヒー代を払えば鑑賞できて、実際に触れたり、座ったり、さらにマスターや常連さんとのおしゃべりも楽しめる。私にとって純喫茶は『コーヒー一杯で入れる昭和博物館』なんです」
レストランとは違って毎日ひとりでも気軽に、朝でも昼でも夜でも、思い立ったらいつでも立ち寄れる。純喫茶は、日常にいちばん近い非日常空間といえそうです。
初めてならここを見て。純喫茶での注目ポイント
純喫茶=昭和博物館として、時空トリップを楽しんでいるという難波さん。お店を訪れた際は座席でゆっくりくつろぐのもいいですが、せっかくならほかのお客様の邪魔にならない程度に視線を動かして店内を隅々まで余すことなく鑑賞すれば、よりお店への愛着も深まって非日常感が楽しめるといいます。
そこで今回はロージナ茶房を舞台にして、難波さんに純喫茶空間でのチェックポイントを教えてもらいました。
まず、入店時にチェックしたいのが外観。「外観では建物や窓の造り、看板があればそのデザインや色合いに注目を。そして扉にも、その店ならではの個性やこだわりが表現されていて楽しいので見逃さないでほしいです!」
そして店内では椅子やテーブル、照明、天井・壁・窓・パーテーションのデザイン、飾られた絵や棚の上の飾り物など、細かなところまでチェックしてみましょう。
純喫茶の椅子は、そのお店のカラーを特徴づけるトレードマーク。例えば、赤いビロード張りのソファがあるお店は閑静なムードが漂っていたり、木製の椅子があるお店にはおしゃべり好きなお客さんが集まっていたりと、お店全体の雰囲気もお客さんのたたずまいも、微妙に違うといいます。
「壁が漆喰(しっくい)なのか木なのかタイルなのか、材質ひとつでもお店の雰囲気はガラリと変わります。食器やカトラリー、メニューやレシートにもお店の個性が表れているので、ひとりで行っても楽しめるポイントが盛りだくさんです」
昭和の時代から現在まで何十年もの歳月を経て、独自の美学やこだわりを貫いてきた純喫茶には、歴史を感じさせる見どころや一度訪れただけでは気づかない魅惑的なディテールがいっぱい。「ひとくちにレトロといっても、名曲喫茶のように静かでこじんまりしたお店もあれば、お城みたいにゴージャスなお店もあって、細部までこだわりがちりばめられているので、同じお店でも訪れるたびに発見があるんです」。ノスタルジックな郷愁と新しいときめきが常にある。それが今でも純喫茶が老若男女に愛される理由なのかもしれません。
純喫茶でしか味わえない独特のメニューとは?
さらに純喫茶の大きな魅力が、クリームソーダ、フルーツパフェ、ナポリタン、ピラフ、ミートソーススパゲティなど、他ではあまり味わえない懐かしいメニューがそろうこと。
「今の時代いろんなジャンルの専門店がありますが、こういうメニューは純喫茶でしか食べられないことが多いですよね。純喫茶のメニューも内装と一緒で、お店の人のこだわりが詰まっている。ひとくちにナポリタンといっても味も見た目も、使っている器や盛り付けもお店によって全然違うから、いくら食べても飽きないんです」
純喫茶はドリンクだけでも独創的なメニューが豊富にそろっているのが魅力。カフェではいつもコーヒーを頼むという人も、純喫茶では気分を変えてふだんなら頼まないメニューをオーダーしてみると、新たな楽しみが広がるはずです。
「色がカラフルできれいだったり、レモンやホイップが飾られていたり。おいしいだけでなく目でも楽しめるメニューが多いので、私はそのお店の椅子の色やその日の洋服の色に合わせて選ぶことも多いですね」。想像するだけでうっとり、心ときめかずにいられない、難波さんらしい楽しみ方です。
最近はSNSで純喫茶の写真がたくさんアップされているので、メニュー選びに迷ったらSNSを参考にするのも今どきで楽しいと、難波さんはいいます。「何度か通って慣れてきたら頼んだことのないメニューに挑戦して、自分だけのお気に入りを探すのがおすすめ。お店の方に『おすすめは何ですか?』と聞いてみるのも、お話をするきっかけになるのでいいかもしれません」
ちなみに、さまざまな純喫茶のクリームソーダを紹介した『クリームソーダ純喫茶めぐり』という著書もある難波さん。「例えば、神保町の『さぼうる』はソーダの色が7色から選べたり、藤沢の『ジュリアン』は中が二つに分かれた特注グラスを使った2色のクリームソーダがあったり。定番メニューほど奥が深いので、ひとつのメニューを掘り下げて純喫茶をめぐってみると、より楽しみが深まります」
お店の備品にも注目して、コレクションする楽しみを
コースターや紙ナプキン、マッチやショップカードなど、お店の備品にもロゴが入っていたり、オリジナルのこだわりが配されていたりすることが多い純喫茶。難波さんは消耗品であれば、お店の方に許可を取り、自分が使用したそれらを大事に持ち帰って、コレクションしています。
「マッチは最近は置いているお店が少なくなりましたが、私が集め出した頃は普通にあって。今でいうショップカード代わりだと思うんですけど、コーヒー一杯400円とかでマッチも持って帰っていいんですか!?って(笑)。そうやって集めたマッチを眺めながら、お店の様子を思い出すのも楽しいです」
多忙な日々の中で、今も毎日どこかしらの純喫茶に足を運んでいるという難波さん。「『今日は静かなお店で本を読もう』とか『今日は疲れたからあそこのパフェを食べよう』とか、その時々の気分に合う純喫茶で過ごす時間は、自分をリセットできる大切なひととき。純喫茶は日常からふっと抜け出せる、家とはまた違ったくつろぎの場所なんです」
ノスタルジックな魅惑のインテリアとメニューで、非日常へのトリップが楽しめる。そんな純喫茶の扉をあなたも開いてみませんか?
Profile
難波里奈
純喫茶愛好家東京喫茶店研究所二代目所長。会社員のかたわら、仕事帰りや休日に純喫茶を訪ね、その魅力をブログ「純喫茶コレクション」やSNS、メディアを通じて発信。『純喫茶とあまいもの 京都編』『なないろのクリームソーダ』、最新著書として、10年前の単行本を大幅に加筆・修正して文庫化した『純喫茶コレクション』など、著書多数。カプセルトイ「純喫茶ミニチュアコレクション」などの監修も手掛ける。
取材・文/井口啓子 編集/柳瀬 礼(Roaster) 撮影/細谷謙介
Recommend
Recommend
自分に素直でいることが、 お日さまみたいな 笑顔をつくる
life style | 12月 29,2021ブルーな雨の日こそ、 スタイリングにこだわって 晴れモードに
life style | 1月 06,2022休日は2匹の“にゃんず”と ゲームにとことん癒やされる
life style | 1月 25,2022私のマインドを強くする、 愛するパートナーの存在。
life style | 12月 20,2021自分にも環境にも 優しいものを 選んで食べる。
life style | 11月 10,2021五感を解放して、 自分自身と向き合う キャンプ時間。
life style | 10月 14,2021サウナで明るく前向きな自分を! 忙しさを癒やす極上時間の作り方
life style | 12月 28,2021ロボットでも、ペットでもない。 LOVOTと暮らすあたたかな毎日
life style | 3月 23,2022洗濯のストレスにさようなら。 すっきり落ちる楽しい洗濯
life style | 11月 19,2021ファッションに ルールはいらない。 自分の“好き”をまとう毎日
life style | 1月 05,2022LATEST ARTICLES
銭湯はもうひとつのホーム 女優・清水みさとが教える 銭湯のいろはとユニーク風呂
Life Style | 12月 19,2022朝からココロが喜ぶ、 “がんばらない”ごちそうトースト
Food | 10月 04,2022話題のヘルシー食材“豆腐干”を 中華・イタリアン・和食の 3品にアレンジ!
Food | 9月 20,2022第2次カヌレブーム到来! お取り寄せ歴26年の達人が選ぶ、 絶品カヌレ3選
Food | 9月 20,2022紫外線ケアグッズは 室内・街中・野外レジャー シチュエーション別で対策
Beauty | 9月 20,2022地球にやさしい草木染めのすすめ 自宅で簡単にできる手染めを体験
Life Style | 9月 20,2022いつも輝き続けるために― 仕事もプライベートも頑張るあなたに セルフケアとリラクゼーションのヒントを届ける ウェブマガジン
ABOUT US