スマートフォンで写真を撮ることが当たり前になった今こそ、アナログのフィルムカメラにふれてみませんか?
モデルとして活躍する阿久津ゆりえさんは、今年でフィルムカメラ歴7年目。カメラ好きの友人にすすめられて始めたフィルムカメラでの日常の記録は、その時々の阿久津さんの感情の記憶となる、かけがえのない宝物になっています。
スマートフォンでの撮影に慣れていると、つい扱いが難しそうだと考えてしまうけれど、フィルムカメラで撮る写真に“失敗”はないのだそう。白飛びやブレも、味わいに。上手に撮ることが目的ではなく、むしろ「想像どおりの仕上がりにならないことが楽しい」と話します。また、1本のフィルムで撮れる枚数に限りがあることも、特別な瞬間を捉えるモチベーションに。手軽に撮れるスマートフォンでの撮影があたり前の今、アナログのカメラを手にしてほしい理由です。
特別なセンスは必要なし。誰でも個性ある作品が撮れるフィルムカメラのおもしろさについて、阿久津ゆりえさんに語っていただきました。
- スマホに比べて手間も時間もかかる分、本当に大切な思い出を刻める
- 失敗したって楽しい! 偶然が生み出す味わい深さ
- 撮るほど写真が好きになる。初心者におすすめのフィルムカメラの選び方
- 撮影から現像を待つ時間差に心躍らせて
スマホに比べて手間も時間もかかる分、本当に大切な思い出を刻める
もともと写真を撮ることが好きだったという阿久津さん。何か夢中になれる趣味が欲しいと思っていたとき、コンスタントにSNSに写真を投稿している阿久津さんを見て、友人が「きっと合う」とすすめてくれたのがフィルムカメラでした。
「そういわれて、“確かにフィルムカメラ、気になるな”と思って。フィルムカメラ独特の温かみのある仕上がりが好きになり、実際に始めたらやはりはまってしまいました」
阿久津さんが撮影するのは何気ない日々の中に見つけた小さな驚きや発見。記憶は、徐々に薄れてしまうものだからこそ、ずっと覚えておきたい素敵な瞬間をフィルムカメラに収めて記録しています。
「デジタルカメラは後からデータを消すことができるので、とにかくたくさんシャッターを切って、いろんな構図を試せるという良さがあるけれど、フィルムカメラはその逆です。1本のフィルムで撮れる枚数が限られるから、シャッターを切るのに慎重になります。そんな不便さが私にとっては逆に良くて、自然と “本当に撮りたいと思うもの”を見つめて撮れている気がします」
カメラは毎日のようにもち歩いているそうですが、何を撮るか、テーマを決めることは基本的にしないそう。行き当たりばったりで出合ったものを撮影して、後から現像してみたときにおもしろい発見があるそうです。
「フィルムカメラで撮った写真は本当に撮りたいと思って心が動いた瞬間の記録だから、後から写真を見返したとき “私ってこういうものを撮ってるときにほっこりするんだ”って自分で自分の気持ちに気がつけるんですよね」
フィルムカメラで写真を撮ることは、無意識にも、自分の心の中をのぞいてみること。その場の思いつきでラフに撮った一枚が、正直な“好き”や“楽しい”を教え、自分の内面を充実させるヒントを与えてくれるのです。
失敗したって楽しい! 偶然が生み出す味わい深さ
阿久津さんがフィルムカメラに夢中になったのは “思うように撮れないこと”も大きな一因だといいます。
「写真を撮るとき、失敗はしょっちゅうあります。“こんなふうに撮りたいな”と思ってチャレンジするのですが、想像したとおりにならないことって実は多いんです。例えば、夜景を撮りたいと思ってシャッターを切ったけれど、ブレてしまったとき。きっと失敗していて、ぼんやりした写真になってるだろうなと思って現像してみると、ブレた光が、逆にホワホワときれいに見えて、偶然の産物が思わぬ味わいを引き出してくれていたりします」
うっかり撮影途中でカメラの裏ぶたを開けてしまうと、感光といって、焼けたような写真になってしまうことも。
「フィルムカメラを使っていると、感光のミスを経験する人は多いと思います。その瞬間は“やってしまった!”と思うのですが、後から確認したら、焼けて写っていない部分があったり、モヤモヤしたものがかかっていたり、そのおかげでノスタルジックな写真になっていてうれしい驚きになることも。フィルムカメラで撮影した写真は、すべて結果オーライ。最終的に失敗はないと思います」
撮るほど写真が好きになる。初心者におすすめのフィルムカメラの選び方
選ぶ機器によって個性に差があるというフィルムカメラ。何から選べばいいか戸惑ってしまうという人に向けて、どんな人でも挫折することなく写真を楽しむことができるおすすめフィルムカメラを、阿久津さん自身が所持するアイテムから厳選していただきました。
「私が最初に購入したのは、マニュアルのフィルムカメラでした。見た目のかわいさに一目惚れして買ったものの、フィルムの入れ方やピントの合わせ方、露出補正が初心者には難しくて、3ヶ月寝かせることに」
カメラの扱いに慣れた今は使いこなせるようになったそうですが、初めのうちは写ルンですでも十分フィルムカメラの楽しさのツボを押さえられるそう。
「『写ルンです』は、何もしなくても明るく写り、 “押せば撮れる”という究極の使いやすさから、どんどん撮りたい気持ちにさせてくれるカメラです。もう一歩フィルム写真の奥深さを学びたいと思ったらキヤノンの『オートボーイ』がおすすめ。フラッシュも付いていてズーム機能もあって簡単ですし、写真に“I ♥ YOU” とか、メッセージを入れられる機能がレトロでかわいいんです。それよりもっとレベルアップした写真が撮りたくなったらコニカの『レコーダー』。ハーフカメラと呼ばれるもので、2枚の写真が1組にできるので、どの写真を組み合わせるか考えて撮ったりするのもおもしろいカメラです」
ネガフィルムも、モノによって現像後の色みが大きく異なるので、撮っていくうちに自分好みの色合いを探してみるとよいそう。
「コダックの『ウルトラマックス』は青みがあって彩度が高いからコントラストがきれいなんです。肌もきれいに写るし、花も空もくっきりと色が出ます。富士フイルムの『業務用カラーフィルム』はクセが少なくやさしい仕上がりに」
現在、ネガフィルムは価格が上がったり、種類も淘汰されつつあるため、手に入りづらくなってしまう前に始めてみてほしいとも話してくれました。
阿久津さんらしさが読み取れる、ベストショットも紹介します。
フィルムカメラによって表現の仕方や写真が見せる表情が変わるのがおもしろいところ。
撮影から現像を待つ時間差に心躍らせて
フィルムカメラは、その場でどんな仕上がりになっているかを確認することができません。阿久津さんはフィルム1本を撮り切るのに時間がかかるタイプだそうで、現像に出すのが数ヶ月先になることも珍しくありません。
「私は、フィルムカメラって2度楽しめるものだと考えているんです。1度目は好きなものを撮影しているときの高揚感。2度目は現像してきたものを見ながら“あのときこうだったな”と思い出を振り返るとき。自分がどんなものを撮っていたかって、タイムラグが発生するとけっこう忘れてしまうものです。現像した写真を見ているうちに当時のことが頭の中によみがえってきて、シャッターを切ったときに抱いたうれしい気持ちを再び新鮮に感じ取ることができるんですよね」
友人を被写体にしたとき、撮影したデータをシェアしたときのエピソードからも、フィルムカメラの魅力が伝わってきます。
「友人が出産したので、パパが赤ちゃんを抱っこしている姿を撮影させてもらったんです。赤ちゃんってあっという間に大きくなってしまうもの。後から写真を渡したら“こんなときもあったよね”と貴重なひとときを再びかみしめてくれて。そんなふうに、一つひとつの思い出を大切に回想するとき、フィルムカメラの存在に感謝せずにはいられないんです」
過去の自分がときめいたものや、かけがえなく感じた人やモノがどんな姿だったろうと、現像ができるのを待つ間のワクワク感もまるごと楽しめるのがフィルムカメラ。
「琴線にふれた“好きなもの”を好きに撮ってみてください。記録した思い出が、後々自分を癒やし、心を充実させる材料になるはずですよ」
Profile
阿久津ゆりえ
モデル多くのファッション誌や広告、CM、MVなどで活躍。飾らないチャーミングな人柄と自然体な美しさでファンを魅了。アパレルとのコラボ商品の制作など、ものづくりのフィールドでも活躍中。趣味で続けているカメラでのSNSの写真投稿にも注目が集まる。
Instagram:https://www.instagram.com/yurie__a/?hl=ja
取材・文/渡辺愛 編集/本間綾乃(Roaster) 撮影/藤井由依
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