子どもの頃にかえったような素直な気持ちで土に触れ、ものづくりの奥深さを体感できる陶芸。つくり上げたものは、世界でたったひとつしか存在しない自分だけの作品になります。「陶芸をしていると、自覚していなかった自分の内面について、よくわかるようになるんです」と話すのはモデルの阿部朱梨さん。
月に3度ほど通う陶芸教室の時間は、心を解放する瞬間であり、自分と向き合うために訪れる大切な場所だといいます。器用でないから自分には向かないなんて考えず、誰でも気軽に陶芸にふれてみてほしいという阿部さん。
「上手に作るのが目的ではなく、自分らしさを育てていくことが楽しいんです」という陶芸のおもしろさについて、自身の作品とのエピソードを交えながら教えていただきます。
- 作品の数だけ、ストーリーがある
- 無心で土と触れ合うことで、私らしさが浮き彫りに
- 教室は、人とつながり、価値観を広げる大切な居場所
- 暮らしの中に器がなじむと、思い入れもひとしおに
作品の数だけ、ストーリーがある
「初めての作品は体験教室で作った白いお茶碗。そのときは、体験に来ていた人全員で同じ形のお茶碗を目指して作ったのに、できたものを並べてみたら、一人ひとりで仕上がりが全然変わることに驚きました。上手い下手なんて関係なく、作品に個性が投影されることがおもしろくて、すぐに夢中になりました」
阿部さんが通う教室は、毎回与えられたテーマのものを作るのではなく、自分が作りたいものを形にしていくというスタンスだそう。
「粘土を指で伸ばしながら形成していく手びねりという技法で器を製作するのですが、フチがひらひらした形を作るのは手びねりだと難しいそうなんです。“それでもチャレンジしてみたい!”と志願して作った小皿は、思い出の一品。底を黒く色付けしてあるので、お浸しなど緑のものを入れるとお料理が映えるんです」
阿部さんのInstagramにもたびたび登場する、愛犬・つくねのために作ったごはん皿は、つくねの体の大きさに合わせて、高さや大きさを調整した力作です。
「初めて筆を使って描いた“阿部つくね”のイニシャル入り。焼き物に色を付けるのに釉薬(ゆうやく)という薬品を塗るのですが、焼く前には足の色がツートーンにくっきり分かれていたのに、仕上がりは色の境目ににじみができました。完成形が予想できないところも陶芸の魅力のひとつだと思います」
一点一点、器の背景にあるエピソードを楽しそうに話す阿部さん。作品は、その時々の自分を物語るものであると同時に、阿部さんの暮らしを彩ってくれる存在です。
無心で土と触れ合うことで、私らしさが浮き彫りに
作風に違いが出るのは、土への接し方に性格が出るからだと説明します。
細かい部分に気を配って作る人もいれば、“こんな感じでしょ!”とダイナミックに土をこねる人もいる。どちらがよいということではなく、ひとつとして同じものができないことが陶芸の醍醐味(だいごみ)なのです。
注意深く物事を進めるタイプの阿部さんの作品は、土の伸ばしすぎを避けているため厚みがあったり、自然と小さいものばかりだったそうですが、作品の数が増えていくほど意識にも変化がありました。
「怖がりな一面が現れている作品も、自分の一部のようで大切です。ですが最近の目標は、土に大胆に触れること。陶芸を通してチャレンジする勇気をもてたら、緊張しがちな自分の性格も変えていけるかな、なんて思っているんです」
“その人らしさ”を表現することのすばらしさに感動したというエピソードも。
「教室の先生が、イベントで幼稚園に陶芸を教えに行ったときの作品を見せてくれたことがあるのですが、子どもたちの作品がどれも自由ですばらしかったんです! 陶芸=器という固定概念にとらわれず、好きなものをかたどっていて、ものづくり本来の意味に気づかされました」
子どもの頃のように、表現したいことに素直になる。それさえ心に刻んでおけば、どんな人でも陶芸を楽しむことができるはず。
教室は、人とつながり、価値観を広げる大切な居場所
自分と相性ぴったりの教室を探し出すのも、自分の中に芽生えた“好き”を育んでいくのに大切なこと。陶芸教室が憩いの場であるという阿部さんは、どのようにして今の教室に巡り会ったのでしょうか?
「まずはネットで、気楽に通える距離から陶芸教室をピックアップ。最終的には4つの教室を選びました。どんなに良さそうな教室でも遠い場所にあったなら続かないと思ったので、第一関門を距離で絞るのは正解だったと思います」
あとは実際に教室を訪れて、どんな生徒がいるのか、先生はどんな姿勢で教えてくれるのかを肌で感じに行きました。「結局今の教室がよいとなったのは、先生がみんなのお母さんのように優しいところや、自分と近い年代の生徒さんや主婦の方などが多く、温かいムードだったから」
教室に置いてある生徒や先生の作品を観察しておくのも大切です。
「年齢層が低めなためか、型にはまりすぎない、クリエイティブな作品を作る方が多いという印象を受けました。陶芸家としても活動する先生の作品も自分の好みにぴったりで“こんな器を作りたいな”と思わせるものばかりだったのも、入会を決めた理由です」
先生だけでなく、他の生徒の作品から刺激を受け、自分ひとりの感覚ではたどり着かなかったデザインにチャレンジすることも少なくないそうです。
先生がランチ会など楽しいイベントを企画してくれることもあり、友人や仕事仲間、家族と過ごすのともまた違う、“好き”を同じくする人たちで集う、新しい居場所ができたのも収穫。ものづくりの体験を通して豊かな人間関係がもてることも、陶芸教室に通うモチベーションになっています。
暮らしの中に器がなじむと、思い入れもひとしおに
器は使えば使うほど、愛情が深くなっていくもの。
お気に入りの作品について、ふだんどんなふうに使用しているかを見せてもらいながら、そこに込めた思いを語っていただきました。
初めて作ったという大きなサイズのお皿は、表面に凸凹ができる仕上がりになったけれど、これも自分らしさ。一生懸命、手探りで土に触れた形跡が見られるのも、愛おしさが増す理由だそう。土を触る力加減が掴めず保守的だった作風から、土に慣れ、アレンジをすることに喜びを見出し始めたのがわかる作品。自分を映し出す鏡のようなところも、思い入れを強くした理由です。
もう一点のお気に入りは、余った土で作ったアクセサリートレイです。
「縁はひらひらの形にして、底で器を支える高台の部分は四角のデザインにしてみました。土の触り方を理解してきて、陶芸が楽しくなってきた頃の作品です。ピアスやリングを置いてみるととてもかわいいんですよ」
「私の作ったごはん皿でごはんを食べてくれるつくねを見ると、うれしくてキュンとしますし、自分の作った器で食事ができることに、特別な気持ちにもなれます。壊れても大事に使いたいので、最近は器の欠けを修正する金継(きんつ)ぎにも挑戦してみたいとも思うようになりました」
作ることで自己表現を楽しみ、使うことで思い出を重ねていける陶芸の世界。好奇心さえあれば、始める準備は整ったも同然。自分自身を知る時間をもつために、陶芸教室の門をたたいてみてはいかがでしょうか?
Profile
阿部朱梨
モデルファッション誌やCM、広告など、幅広いジャンルでモデルとして活躍する傍ら、アパレルブランド『KAIEKA』のデザイナーを務める。Instagramのセンスあふれる投稿は、ファッションや食、趣味の陶芸やパン作りなどバラエティ豊かで、男女問わずフォロワーから厚い支持を得ている。
取材・文/渡辺愛 編集/杉江はるよ(Roaster) 撮影/服部希代野
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