ここ数年のブームを受けて、キャンプに興味をもちはじめた人も多いのでは? 準備やキャンプ場へのアクセスなど、初心者さんにはハードルが高いイメージもありますが「場所や道具選びを工夫すると、思いのほか気軽に行けますよ」と、キャリーバッグひとつで行くキャンプスタイルを確立したキャンパーの森風美さんは話します。そんな森さんに、キャンプ初心者にぴったりな“キャリーキャンプ”の楽しみ方を教えていただきました。
- キャリーバッグひとつで行く「キャリーキャンプ」とは?
- 私だけのキャンプ空間をつくる楽しみ
- マイペースに、快適に過ごす夏キャンプ
- 初心者が過ごしやすいキャンプ場の選び方
キャリーバッグひとつで行く「キャリーキャンプ」とは?
アウトドア好きな家族のもとで育ち、幼い頃からキャンプに慣れ親しんできたという森さん。豊富なキャンプ経験を生かして、女性も気軽に楽しめるキャンプスタイルを発信するほか、キャリーバッグひとつで行く“キャリーキャンプ”を確立したことでも知られています。そのきっかけは、ソロキャンプデビューした大学生の頃のあるできごとでした。
「今日もってきたテントに一目惚れして、このテントでソロキャンプしてみたい!と思ったのがはじまり。小さい頃から家族とはキャンプに出かけていましたが、ソロは未経験で。当時は車も運転免許ももっていなかったため、公共交通機関で移動しやすい荷物量にせざるを得なかったんですね。そこからたどり着いたのが、キャリーバッグで行く“キャリーキャンプ”でした」
当時はソロキャンプについての知識もなかったため、まずは下調べ。「そこで女子ソロキャンパーの先がけとなったこいしゆうかさんに出会いました」。こいしさんはバックパックを愛用されていたそうですが「バックパックに収まるサイズの折り畳みテーブルや軽いチタン製の鍋は、質がいいぶん値が張るんですよ。私はまだ学生だったので予算的に厳しいなと考えたときに、思いついたのがキャリーバッグでした」
今愛用しているのは、デザインが気に入って選んだという70リットルサイズの布製キャリーバッグ。キャリーバッグの素材を大きく分けると、布製のソフトタイプとプラスチックやアルミを使っているハードタイプの2種類があります。「ハードは頑丈で汚れも落ちやすいので便利ですが、私はなぜか帰りに収納がうまくいかなくなったり、おみやげを買って荷物が増えたりするタイプなので、多少容量が増えても大丈夫な伸縮性のあるソフトタイプを使っています。それぞれの良さがあるので、用途や好みによって選んでみてください」
「ちなみにキャンプにもっていくなら、4輪よりも2輪が向いています。4輪は小回りが利きますが、2輪の方がタイヤが大きく、舗装されていない道でも引きやすい。また、ロックをかけなくても電車やバスの中で転がりにくいのもお気に入りです」
「キャリーバッグに収まるようにキャンプ道具をチョイスする時間も、キャリーキャンプのおもしろさ」だとか。「焚き火台やBBQコンロはキャンプ場でレンタルできることもあるので、その時々で借りられるものを踏まえながら、手もちのアイテムをピックアップしていくと荷造りもスムーズです」
「けっこうな量ですが、おうちではキャリーバッグに収納したまま置いておくと部屋のスペースも圧迫しませんし、災害時に避難するときの備えにもなります。特にLEDランタンは火事の心配もないので、一つ用意しておくと安心ですよ!」
よく見ると、ランタンが3つも入っています。「すべて充電式の吊るせるタイプで、テント内で使うものと空間に雰囲気を出すインテリア用とで使い分けています」。中でも夏キャンプでのイチオシは、アウトドアショップ「5050WORKSHOP」の殺虫ライトが付いた「MOSKEE YURAGI」。
私だけのキャンプ空間をつくる楽しみ
家族でキャンプに行っていたときは、道具選びも機能性重視だったため、一人でキャンプするようになってからお気に入りの道具を集める楽しみや、キャンプでの空間づくりにも目覚めたという森さん。
キャンプで自分ならではの空間をつくる醍醐味(だいごみ)は「無駄なものがないこと」だと話します。「おうちではせっかくインテリアに凝っていても、家電のコードや郵便物の山など、どうしても余計なものが目に入りますよね(笑)。大自然の中で過ごすキャンプならそうした現実的なものが入り込まないので、好きなアイテムだけがそろう特別な非日常空間がつくれるんです」
自分らしいキャンプスペースをつくるコツは「占める面積が大きなものに、道具全体のテイストを合わせること」。「キャリーキャンプで一番場所を取るのはテントなので、それを中心に色みやデザインを合わせていくと雰囲気がまとまりやすいですよ」
道具の選び方も、キャンパーによってさまざま。「ブランドにこだわらない人と、ブランドのラインをそろえて統一感を出す人がいます。私は前者で、雑貨屋さんを巡ったりしながらキャンプで使えそうなアイテムを探すのが趣味の一つ。あとは、100円ショップもよく利用しますね。今日もってきた調味料ボックスも、100円ショップで買った箱をちょうつがいでつなげて手づくりしたものなんです」
初心者がまずキャンプ道具を選ぶときは、なんでもそろう量販店タイプのアウトドアショップに行くのがベスト。「『スポーツオーソリティ』や『エルブレス』『スーパースポーツゼビオ』など、専門的な知識をもつスタッフさんがいるお店でアドバイスをもらうといいですよ。店舗に行けば実物が見られるし重さもわかって、キャリーバッグで移動するときの重量感がイメージしやすいと思います。さらにアウトドアショップやメーカーがキャンプ講習を開催していることもあるので、キャンプ未経験の人はそうしたイベントに参加するのもいいと思います」
マイペースに、快適に過ごす夏キャンプ
キャンプ中は季節に関係なく、テントのそばでまったり過ごすのが森さん流。夏はそこに、シュノーケリングや釣りなどのアクティビティが加わるのだそう。「海釣りした魚を食べるなど、山海両方の自然にふれられるのは夏ならではですね」
さらに太陽が照りつける夏キャンプでは、「服装やもち物にちょっと気を使うと格段に過ごしやすくなる」といいます。「アイテムでいえば、テント内を涼しくするバッテリー内蔵のポータブル扇風機は必須! 場所も取らないので、取り入れてみてください」
夏場にキャンプ飯をつくるなら……「暑い時期は特に、レトルトパウチ食品や乾麺が便利です。移動時間にもよりますが、生肉や魚は鮮度が心配なのと、余ったときにもち帰るのも難しい。もし生鮮食材をもっていくなら、事前に小分けにしておくとかさばりませんよ」
さらに、キャンプ飯をつくるうえでもっておくと便利だというのが「アウトドアスパイス」。「塩コショウ、ニンニク、ハーブなどをミックスしたスパイスなのですが、生野菜やお肉にふったり、レトルトにひと味くわえたり。私は『motteco』や『ほりにし』が好きですが、一般的なスーパーで買うなら『マキシマム』のものがキャンパーの中でも人気です」
初心者が過ごしやすいキャンプ場の選び方
キャリーキャンプのよさは「思い立ったらすぐに出かけられて、日帰りでもお酒が飲めるところ!」。「公共交通機関といえば電車やバスで行ける範囲をイメージしがちですが、ちょっとぜいたくしてタクシーを活用すれば行動範囲が広がりますし、飛行機や船という選択肢もあります。目的地が遠方であるほど、キャリーキャンプの自由度を実感しますね」
とはいえ、初めてならばまずは近場で。
夏におすすめのスポットを聞くと、「都内からアクセスしやすいのは、電車とバスで行ける『江東区立若洲公園』のキャンプ場。海釣りもでき、かつ、さおもレンタルされているのでふだんどおりにキャリーバッグひとつで行けばOKです。もう少し足を延ばすなら、伊豆七島も自然がいっぱいでいいですよ」
今回撮影で訪れた神奈川県本厚木にある「TINY CAMP VILLAGE(タイニーキャンプヴィレッジ)」も、夏のキャリーキャンプにおすすめな場所の一つ。森さんがソロキャンプ初心者の頃から通っている、思い出深いキャンプ場でもあります。
「『いいところないかな?』と聞かれたら一番にすすめるのがこちら。緑にあふれ風も気持ちいいですし、涼しげな小川のせせらぎに癒やされます。1区画が大きく、1日5組限定というプライベート感があるのも初心者さんには最適。人数が限られているため、泊まっている人たちの雰囲気がわかる安心感があります」
そして初心者さんにすすめたい一番の理由は「オーナーさんの人柄! テントを立てるのに慣れていなくても優しく教えてくれますし、希望すればあらかじめ立てておいてくれることも。しっかりケアしてくださるので、安心して過ごせるはず。そうした情報を得るためにも、キャンプ場を選ぶときはHPなどのレビューをしっかり読むのが重要です。利用者の雰囲気やオーナーさんによって、実際に訪れたときの印象がだいぶ変わるので」
「キャンプ場が決まったら、事前にテントを立てる練習をしておくと心配なく当日を迎えられます。時間に余裕があるなら、近所の公園やおうちの中で立ててみてください」
今やプロキャンパーの森さんも、ソロキャンプデビューは大学生になってからでした。「その頃は実家暮らしだったので、一人で一から準備して出かけることが自信にもつながりました。キャンプは自然の中でリラックスできるという魅力もありますが、私は子どもの頃からひと通りのアウトドアを経験済みだったので、私だけの空間づくりができるという点で、おままごと的な楽しさからハマりました。これからキャンプデビューする人は、一度行ってみると自分がハマるポイントやこだわりたい部分がわかってくると思います。身軽に気軽に行けるキャリーキャンプが、そのきっかけになればとてもうれしいです」
Profile
森風美
キャンパー1994年、千葉県生まれ、神奈川県育ち。アウトドア好きな家族の影響でキャンパーとして育ち、大学3年時に1年間休学しキャンプの仕事をスタート。4年生で復学したと同時に女性向けアウトドアWebメディア「なちゅガール」編集長に就任する。その後も継続してキャンプ活動を続け、自身が確立した「キャリーキャンプ」をはじめ、車中泊や釣りなどさまざまなアウトドアを楽しんでいる。各種メディアやイベントへの出演など幅広く活動中。著書に『はじめよう!ソロキャンプ』(山と溪谷社刊)がある。
Instagram:https://www.instagram.com/fu_u.m/
取材・文/金城和子 構成/田中朝子(Roaster) 撮影/菅原景子
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