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長く使い続ける「一生モノ」にはスペック以上の理由があります。モノ選びのプロ12名が、過去と未来の10年を見据えて厳選した計72の価値あるアイテムを紹介。ずっと愛着がわく一生モノ選びのヒントを提案します。

人気セレクトショップのバイヤーとして、国内外の多くのブランドや物づくりに触れ、審美眼を磨いてきた山野邉さん。そんな“モノ選びのプロ”が、自分のために選び、長く使い続けているアイテムとは? 前編では、10年愛用したモノのお話を通して、背景にある価値観や、モノとの付き合い方について教えていただきます。

REVIEWER

山野邉彩美

トゥモローランド バイヤー

山野邉彩美さん

大学卒業後、トゥモローランドへ入社。店舗での販売を経験したのち、現職。国内外のブランドの買付をはじめ、オリジナルアイテムの企画や販売にも携わる。陶芸作家としても活動するなど、多彩なクリエイティブワークを展開。丁寧な暮らしが伝わるSNSにも関心が集まっている。

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目次

作り手の哲学や、ストーリー性のあるモノに惹かれる

抜群のセンスと独自のスタイリングで、20代の頃から多くの媒体で着こなしやライフスタイルが取り上げられてきた山野邉さん。10年前も今も、惹かれるモノの基準は大きく変わっていないといいます。

「私ってオタク気質なんですよ。物事を調べることが好きなので、ブランドの歴史や物語、デザイナーの思考、職人の技術など、調べるほどに興味がわいて、もっと知りたくなる。だから作り手の哲学が見えるモノや、ストーリー性のあるモノに昔から惹かれるんだと思います」

作り手の哲学や、ストーリー性のあるモノに惹かれる

バイヤーとして数百ものブランドに触れ、数え切れないほどのモノと出会ってきた山野邉さん。そんな彼女が10年間愛用し続けてきた品々は、単なる愛用品ではなく、美意識や価値観を映し出す、ライフスタイルに欠かせない存在となっていました。

トゥモローランド バイヤー・山野邉彩美さんが10年使ったもの①:アスティエ・ド・ヴィラットの器

トゥモローランド バイヤー・山野邉彩美さんが10年使ったもの①:アスティエ・ド・ヴィラットの器(エピソードを読む

トゥモローランド バイヤー・山野邉彩美さんが10年使ったもの②:サンタ・マリア・ノヴェッラのポプリ

トゥモローランド バイヤー・山野邉彩美さんが10年使ったもの②:サンタ・マリア・ノヴェッラのポプリ(エピソードを読む

トゥモローランド バイヤー・山野邉彩美さんが10年使ったもの③:エルメスのベルト(used)

トゥモローランド バイヤー・山野邉彩美さんが10年使ったもの③:エルメスのベルト(used)(エピソードを読む

丁寧に暮らす大切さを教えてくれた、アスティエの器

お料理好きな山野邉さんの暮らしに、なくてはならないモノのひとつが器です。ご自宅には数々の美しい器がインテリアのように並び、キッチンの一番手に取りやすい場所には「アスティエ・ド・ヴィラット」のコレクションが置かれています。

コツコツ集めてきたアスティエコレクション。形も大きさもさまざまな器が20枚以上並ぶ

コツコツ集めてきたアスティエコレクション。形も大きさもさまざまな器が20枚以上並ぶ

「料理を始めたのは10代の頃。北大路魯山人の『器は料理の着物』という言葉を知り、器は食材や料理を引き立てる、まるで洋服のような大切な存在なのだと思うようになりました」

「アスティエの器は一目惚れでした。最初に手に入れた一枚は、月桂樹がモチーフになったオーバルのお皿。ちょうど一人分のパスタや、サラダを盛り付けるのにぴったりのサイズで重宝しました」

大学生のときに買ったコレクションの第一号

大学生のときに買ったコレクションの第一号

それ以来、社会人になってからは誕生日などの節目に、自身への贈り物としてコツコツと集めてきたといいます。ここ数年は仕事で海外へ行く機会が増え、出張先で買うことも多いそう。山野邉さんがアスティエに魅了され続ける理由はどこにあるのでしょうか?

「一番の魅力は、職人さんが一つひとつ手仕事で作っていることですね。薄く伸ばした粘土を石膏の型に押し当てて成形する昔ながらの技法で作られていて、手のぬくもりが感じられるところ。黒い粘土に白い釉薬(ゆうやく)をかけて焼いているのですが、釉薬の揺らぎで不規則に黒土が見え隠れしたり、凹凸や窪み、小さな穴などもそれぞれに個性があり、不思議なくらい表情豊かなんです。全部白なのに、私にはカラフルに感じる、それがアスティエならではの魅力だと思っています」

8年前に陶芸を始め、陶芸家としても活動している山野邉さん。作品づくりで影響を受けた部分も多いといいます。

「見た目が美しいだけではなく、『使い続けられる器』であること。例えば、一見使いづらそうに見えても、持つと軽かったり、重ねやすかったり。料理が映えるリムの幅や、一人暮らしならこの大きさ、大人数ならこのサイズが使いやすいなど。そんな機能美へのこだわりを、アスティエの器を通して自然と学んで、自分の器づくりにも生かしています」

割れてしまったものは自分で金継ぎをして大切に使っている

割れてしまったものは自分で金継ぎをして大切に使っている

一方で、アスティエの器はとても繊細という一面も持ち合わせています。

「繊細なので、自然と丁寧に扱うようになります。でも、その時間さえも『もっとゆったりとした気持ちで、スローに時間を過ごしましょう』といわれているような気がして。私が日々の食事を大切にすることにもつながっていると思います」

「割れてしまったものは金継ぎもしています。壊れたから終わりではなく、直してまた使い続ける。その考え方も、これらの器から教わったことのひとつ。私にとってアスティエは、ただ美しい器ではなくて、『丁寧に暮らすこと』や『モノを大切に使い続けること』を教えてくれる存在なんです」

トゥモローランド バイヤー・山野邉彩美さんが10年使ったもの①アスティエ・ド・ヴィラットの器

アスティエ・ド・ヴィラットは、1996年にフランス・パリで創業したライフスタイルブランド。黒土に白い釉薬を施した独特の風合いと、クラシックで詩的なデザインが特徴で、日常を豊かに彩る器として世界中で愛されている

アスティエ・ド・ヴィラットは、1996年にフランス・パリで創業したライフスタイルブランド。黒土に白い釉薬を施した独特の風合いと、クラシックで詩的なデザインが特徴で、日常を豊かに彩る器として世界中で愛されている

毎日の暮らしにそっと安心感を添えてくれる香り

家で過ごす時間を大切にしている山野邉さんにとって、もうひとつ欠かせないのが「サンタ・マリア・ノヴェッラ」のポプリです。

「サンタ・マリア・ノヴェッラ」は、1221年にイタリア・フィレンツェの修道院で誕生した、世界最古級の薬局として知られるブランド。ハーブや植物の力を生かした香水やスキンケア、ボディケア製品を展開。約800年に渡り受け継がれる伝統製法と、職人の手仕事による丁寧な物づくりで、世界中から愛され続けています。

帰宅すると自然と気持ちが落ち着く香りに包まれる

帰宅すると自然と気持ちが落ち着く香りに包まれる

「仕事で初めてフィレンツェを訪れたときに出会いました。本店に入った瞬間、歴史ある建物の佇まいや荘厳な空気感に圧倒されて。伝統を大切にしながら丁寧に作られているプロダクトにも強く惹かれました」

そのときに感じた香りを家でも楽しみたくて使い始めたポプリ。キャンドルやルームフレグランスではなく、ポプリを選び続ける理由は、その自然な佇まいにあるといいます。

「見た目も素材感もすごくナチュラル。作り込まれたものより、植物そのもののような自然な雰囲気に惹かれるんです」

リビングでは自作の陶器に入れて香りを楽しんでいる

リビングでは自作の陶器に入れて香りを楽しんでいる

「リビングのほかにもトイレや洗面所などに、自作の陶器や小皿に移して置いています。香りが弱くなってきたら、少しずつ足して使うのが定番です。とても気に入っているので、ギフトとして贈ることもあります」

「ちょっとノスタルジックな雰囲気があって、帰ってきたときに自然とほっとできる香りなんです。インセンスやファブリックミストで気分転換をすることはありますが、お部屋のベースの香りだけは、ずっと変えていません」

出張先での出会いから始まった香りは、今では暮らしに欠かせない存在に。変わらないからこその安心感が、お部屋をより居心地のいい空間にしてくれているようです。

トゥモローランド バイヤー・山野邉彩美さんが10年使ったもの②サンタ・マリア・ノヴェッラのポプリ

トスカーナの丘に自生する葉、根、花、つぼみをブレンドしたポプリ。サンタ・マリア・ノヴェッラを象徴する人気製品のひとつで、300年以上に渡り自社工房で丁寧に作り続けられている

トスカーナの丘に自生する葉、根、花、つぼみをブレンドしたポプリ。サンタ・マリア・ノヴェッラを象徴する人気製品のひとつで、300年以上に渡り自社工房で丁寧に作り続けられている

使い込むほどに風合いを増す、エルメスのベルト

最後に紹介してくれたのは、友人から受け継いだというエルメスのベルトです。

「洋服やエルメスにとてもくわしい友人から譲ってもらったもの。もともとusedで、私がさらに使い込んだことで白っぽく色が抜けてきて、自分らしい味が出てきました」

「特徴である白いステッチや、馬具に由来するバックルのデザインもお気に入りですが、一番愛着を感じるのは私が使ってきた時間がベルトに刻まれているところ。よく触る部分の色の変化や傷、ウエストの位置にできたクセを見ると、一緒に時間を過ごしてきたバディのように感じるんです」

シンプルな服装でも、このベルトをすることでガラリと印象が変わる

シンプルな服装でも、このベルトをすることでガラリと印象が変わる

パンツスタイルが定番の山野邉さんにとって、ベルトは欠かせないアイテムだといいます。

「最近はシンプルなコーディネートが多いので、『今日は少し物足りないな』というときにベルトをすると全体が引き締まりますし、ウエストマークをすることで女性らしさも出せる。特に夏は足元が軽くなるので、ベルトでバランスを取ることが多いです」

「仕事柄、洋服や小物もたくさん持っているように思われるのですが、実はそんなに多くないんです。ベルトも全部で4本だけ。今は本当に気に入ったモノだけを長く使って経年変化を楽しんでいます」

ナチュラルブラウンのレザーに、白いステッチがアクセントになっている

ナチュラルブラウンのレザーに、白いステッチがアクセントになっている

「エルメスのベルトは、仕事の日によく身につけています。白シャツのようなカチッとした服装に合わせてトラッドな雰囲気にするのが好きですが、使い込んだモノだからこそ程よく力が抜けて、ちょうどいいリラックス感が出るんです。お守りというほどではないですが、どこか安心できる。その安心感が、今の私には心地よいのだと思います」

トゥモローランド バイヤー・山野邉彩美さんが10年使ったもの③エルメスのベルト(used)

馬具づくりをルーツに持つエルメスらしい、シンプルで機能美あふれる一本。使い込むほどに革が経年変化し、傷や色のムラまでもが持ち主だけの味わいとなって、唯一無二の存在へと育つ

馬具づくりをルーツに持つエルメスらしい、シンプルで機能美あふれる一本。使い込むほどに革が経年変化し、傷や色のムラまでもが持ち主だけの味わいとなって、唯一無二の存在へと育つ

愛用し続けることで、自分のスタイルになる

山野邉さんがモノを大切に、長く愛用する背景にはブランドに対する敬意が感じられます。

「アスティエもサンタマリア・ノヴェッラも、エルメスも、職人の手仕事を大切にしているところがすばらしい。特にエルメスは職人のプライオリティがとても高いことでも知られていますよね。効率や流行を追うのではなく、受け継がれてきた技術や品質を守り続ける姿勢、タイムレスな物づくりからは、学ぶことがとても多いんです」

ポプリを足す山野邉さん。そんなひと手間も大切なひととき

ポプリを足す山野邉さん。そんなひと手間も大切なひととき

何十年経っても古さを感じさせず、暮らしや装いに彩りを添える普遍的なデザインや香り。山野邉さんが大切にしているタイムレスなアイテムは、いつの間にか暮らしに欠かせないモノになり、彼女らしいライフスタイルを形づくっていました。

撮影/藤井由依 編集・文/豊泉陽子