前編では、現在の榎本さんをつくる重要なパーツとなった思い出の品をご紹介しました。後編では、デザイナーになり独自の世界観を確立した彼女が、この先10年後も使いたいと思う、大切な仲間についてお話しを伺います。

REVIEWER

榎本紀子

デザイナー

榎本紀子さん

1996年生まれ。東京都出身。共⽴⼥⼦⼤学被服学科卒業後、⽂化服装学院服飾研究科へ⼊学。その後、服飾専攻科技術専攻に進学し、卒業後はレインボーシェイクに⼊社。パタンナーとして活動しつつ、2020年に自身のバッグブランド「nori emonoto」を始動。ウェーブ(波形)をモチーフにした唯一無二のデザインが特徴で、販売開始すると同時に即完売するほどの人気ぶり。

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目次

確立した世界観に「仲間」を迎え入れる感覚

今年30歳を迎えた榎本さん。現在のモノ選びの基準は「自分の世界観にマッチするかどうか」だといいます。

「20代で自分の『好き』や『自分らしさ』と向き合ってきたことで、目指す世界観がクリアになりました。モノを選ぶ際にはその世界観にマッチするかどうかを大切にしていて、仲間を迎え入れるような感覚です」

今回彼女が招いてくれたのは、数ヶ月前に完成したというアトリエ。
色とりどりの「nori enomoto」のバッグや、私物のドレスが並ぶ夢のような空間には、未来を共にする「仲間たち」が呼吸をするように並んでいました。

デザイナー・榎本紀子さんが10年後も使いたいもの①:ブラザーのミシン(エピソードを読む

デザイナー・榎本紀子さんが10年後も使いたいもの②:カルティエのパンテール

デザイナー・榎本紀子さんが10年後も使いたいもの②:カルティエのパンテール(エピソードを読む

デザイナー・榎本紀子さんが10年後も使いたいもの:ハーマンミラーのイームズチェア(HAYコラボ)

デザイナー・榎本紀子さんが10年後も使いたいもの:ハーマンミラーのイームズチェア(HAYコラボ)(エピソードを読む

単なる道具ではない「一生涯のパートナー」

今の榎本さんの生活に、なくてはならないアイテムのひとつがミシンです。

「私が初めて自分で買ったミシンで、アトリエでバッグや小物を制作する際に使用しています。ブラザーを選んだのは母が使っていたから。昔から自宅で使用しているのを見ていたので、なんとなく愛着がありました」

小さめの作業台で、小物を縫うのに使い勝手がいい

ミシンには家庭用・職業用・工業用があり、プロは工業用を使うことが多いといいますが、榎本さんはあえて職業用を使用しているそう。

「『工業用じゃないの?』と驚かれることもあるのですが、フェイクレザーのバッグや小物をつくる際に小回りがきいて使いやすいんです。何よりこの子とは『気が合う』という感覚が強くて。糸を切りたいタイミングの間や糸調子なども自然と合ってきていて、長年のパートナーみたいに呼吸がぴったりなんです」

レザー小物にリボンでパイピングの加工をしているところ。曲線を際立たせるパイピングは「nori enomoto」の象徴的なデザイン

「インスタグラムで制作中の動画をのせると『結構音がするね』といわれることも。静音のミシンではありませんが、『縫ってる感』があって私は心地がいいんです」

「相棒感が強いので、違うミシンで縫った作品は『別の人とつくったモノ』という感じがしてしまう。この先アトリエに工業用ミシンを入れたとしても、ずっと一軍で活躍してほしいのはこの子ですね」

デザイナー・榎本紀子さんが10年後も使いたいもの①ブラザーのミシン

デザイナー・榎本紀子さんが10年後も使いたいもの① ブラザーのミシン

プロ用ミシンに欠かせない基本性能と拡張性を備えたモデル。比較的クセが少なく「基本を極めたミシン」として、家庭でも使いやすい

理想の女性として歩んでいくための「心強い味方」

次に紹介してくれたのが、30歳の記念に自分で購入したというカルティエの時計です。

「『長く使えるモノ』という基準の中でジュエリーという選択もありましたが、私はジュエリーを重ね付けするタイプ。それよりもひとつで確立されるモノがいいな、と思って時計を買うことに決めました」

上品な華やかさはダイヤ付きならでは。奥ゆかしさを感じられるところにも惹かれたそう

「ちょうど時計が気になり始めたときに、『SEX AND THE CITY』の新シーズンを見ていたんです。50代になった彼女たちはいろいろな時計をしていて、その中のひとりがパンテールをつけていました。私も働く女性として、彼女たちのようにかっこよく歳を重ねていきたいという思いがあり、時計が味方になってくれるのではと思いました」

しなやかな佇まいは、メゾンのアイコンである「パンテール(フランス語で豹)」の優雅な動きを想起させる

「買うまでには何度もお店に足を運びましたし、時計を持っている人の話も聞きました。種類がたくさんあるので迷いましたが、『歳をとっていくと華やかさが必要になるから、ダイヤ付きの方が長く使えるよ』というアドバイスが後押しに。サイズも中くらいを選んだことで私の洋服にも負けず、上品な華やかさをプラスしてくれます」

「この時計をつけると『ふさわしい女性になろう』と、背筋が伸びるんです」そう語る彼女。この先キャリアを築いていく中で、きっとこの時計が彼女を勇気づけ支えてくれることでしょう。

デザイナー・榎本紀子さんが10年後も使いたいもの②カルティエのパンテール

1980年代に誕生した「パンテール ドゥ カルティエ」ウォッチ。横のリューズ先端には「スピネル」という青い石がついていて、アクセントになっている

1980年代に誕生した「パンテール ドゥ カルティエ」ウォッチ。横のリューズ先端には「スピネル」という青い石がついていて、アクセントになっている

気分を上げてくれる「アトリエの仲間」

昨年からコツコツとつくり上げてきたアトリエ。その中で、ひときわキュートな存在感を放っているのがアメリカの高級家具メーカー「ハーマンミラー」の名品、「イームズチェア」です。

淡いピンクがアトリエの雰囲気にベストマッチ

淡いピンクがアトリエの雰囲気にベストマッチ

「フランスに出張に行くと、宿に置いてある椅子がイームズチェアのことが多くて。リプロダクト品だとは思いますが、ずっと『かわいいな』と思っていました。アトリエにはいい椅子を置きたいと決めていたので、『ハーマンミラー』の正規品を買うことにしたんです」

榎本さんが選んだのは、デンマークのインテリアブランド「HAY(ヘイ)」とのコラボ。

イームズチェアのシンプルでクラシカルなフォルムはそのままに、HAYらしい絶妙なカラーと素材使いでアップデート

「イームズチェアといえば赤やオレンジなどのパキッとしたカラーが主流。この淡いピンクを見つけたときは、私の世界観にぴったりだと思いました」

とてもお気に入りで、ミシンで作業するときもこの椅子を使っているそう。

「座り心地もよくてかわいいので、仕事中のモチベーションを上げてくれます。ただ、座るとあまり見えなくなってしまうので、たまに移動させて眺めたり。友人を呼んで、アトリエでティーパーティをするときにも使っています」

自分の「好き」だけを集めて、夢のような空間をつくり上げた榎本さん。「ヴィンテージになるまで大切にしたい」と語るその眼差しには、長く寄り添う「仲間」への愛情と敬意が込められていました。

デザイナー・榎本紀子さんが10年後も使いたいもの③ハーマンミラーのイームズチェア(HAYコラボ)

2022年にHAY20周年を記念して発売されたコラボモデル。再生プラスチックを使用したサステナブル仕様で、北欧らしいやわらかく遊び心のある色使いが魅力

「モノを知る時間」は自分を育てることにつながる

30代を迎えて「長く使えるモノ」にピントが合ってきたという彼女に、「『ホンモノ』を見極めるコツは?」と聞いてみました。

「もちろん『ときめき』があることは大前提ですが、『実際に見てみる、触れてみる』ということも大切にしています。なんでもネットで手に入る時代ですが実際にお店に足を運んで店員さんの話を聞き、実物に触れることで、得られる情報がたくさんあります。知人に意見を聞くことも勉強になります。そうやって時間をかけて調べて手に入れたモノは、自分にとって『ホンモノ』の価値があると感じます」

榎本さんの成長と共に、「nori enomoto」がどのように進化していくのかも目が離せない

「また、欲しいモノについてあれこれ調べる時間は、自分を育てる時間でもあります。その時間自体も、ホンモノを見極める審美眼につながっていくのではないでしょうか」

20代は自分の「好き」を絞っていくことで世界観を守ってきた彼女ですが、30代では少し視野を広げていきたいと考えているそう。

「これからは苦手なことにも興味を持ったり、話を聞いてみようと思っています。40代はどうなるかわかりませんが、そのときの自分も楽しみです」

撮影/藤井由依 編集・文/豊泉陽子