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【一生モノ】フローリスト/作家・越智康貴さんが10年使ったもの(前編)
What is this feature?
長く使い続ける「一生モノ」にはスペック以上の理由があります。モノ選びのプロ12名が、過去と未来の10年を見据えて厳選した計72の価値あるアイテムを紹介。ずっと愛着がわく一生モノ選びのヒントを提案します。
フローリストとしての枠を飛び越え、写真やファッション、文章など多様な表現を横断する越智康貴さん。その感性は、日々身のまわりに置くモノ選びにも色濃く表れています。前編では、越智さんが10年以上使い続けているモノを通して、価値観や暮らしとの向き合い方を伺いました。
フローリスト・作家
越智康貴さん
1989年生まれ。埼玉県出身。文化服装学院を卒業後、2012年に原宿のアパレル店舗でフラワーショップ「ディリジェンスパーラー」をオープンし、2016年に表参道ヒルズに移転。2026年に『文學界』で小説家としてデビュー。
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目次
自分の中にある2つの相反する気持ち
「僕が買うモノって限られているんですよ。洋服と本はすごくたくさんあるんですが、食器とかインテリア関係のモノは本当に少なくて」
そう語る越智さんのご自宅は、白い壁と床の余白を残したクリーンなスタジオのような空間。その中にはぽつんと白いソファ(後編の記事でご紹介)が置かれ、壁には部屋を見守るようにご自身で描かれた絵や友人のアートが飾られています。
「暮らしの中にいろいろなモノがあると、目に入るたびにそのモノについて考えてしまうんです。だから基本的に何もかもしまわれている状態が落ち着くんですよね」
モノに対しては、越智さんの中で2つの相反する気持ちがあるといいます。
「恋愛と同じで、『一緒にいたいのに一人の時間もすごく大事』みたいな正反対の衝動が自分の中にあって。モノを所有したい気持ちと、何もかも手放して自由でありたいみたいな気持ちが両立しているんです」
「洋服や本に関しては仕事に関連しているのである程度は許容していますが、インテリアや家電は基本的に増やさないと決めています。自分の居場所が固定されてしまうような不自由さが苦手なんですよね」
所有していることが「重い」と感じたときは、一気に手放してしまうこともあるのだとか。特に20代の頃は今ほど所有することに慎重でなかったので、手に入れては手放すという繰り返しだったといいます。そんな中で、10年以上も使い続けたモノについて、それぞれの歴史を紐解いていきます。
フローリスト/作家・越智康貴さんが10年使ったもの①:ライカのコンパクトデジタルカメラ D-LUX(エピソードを読む)
フローリスト/作家・越智康貴さんが10年使ったもの②:コム デ ギャルソンのハーフパンツ(エピソードを読む)
フローリスト/作家・越智康貴さんが10年使ったもの③:リチャード・ジノリのジオ・ポンティ コレクションの花器(エピソードを読む)
写真を始めるきっかけになった記念すべき1台
ライフワークといってもいいほど写真を撮るのが大好きで、写真家としても活躍している越智さん。10台ほどのカメラを所有しているそうですが、中でも特に思い入れがあるのがライカのコンパクトデジタルカメラ D-LUXです。
「当時の恋人が写真学校に通っていて、影響されて僕も写真に興味を持ち始めたんです。このカメラは元恋人がおじいさまから贈られたモノだそうですが、縁あって僕が譲り受けました」
花や人を撮ることがライフワークになっている
「それから僕もなんとなく写真を撮り始めて、飽きることなく今に至ります。このカメラの好きなところは、カリッとした質感に映るところ。iPhoneで撮影した写真も好きですが、デバイスの液晶を通して見る写真という感覚があります。一方ライカのデジカメは、プリントするための写真という感じ。細かい部分の写り方とか質感が、『出力することに向いているな』と思います」
コンパクトで軽くて頑丈、充電も長持ち。内臓フラッシュもついているので暗い場所でも撮影ができてシチュエーションを選ばない。人も食べ物も、風景も、あらゆるものを撮ることができるのでとっても重宝しているそう。
たくさんの傷がついて一部の機能が使えなくなっていても、まだまだ現役
「便利なので旅行に持って行くことも多いですね。20代のときに仲のいい友人とベトナムに行ったんです。当時は露出アンダーな写真を撮ることにハマっていて、旅行の写真が全部暗いんです。今見ると20代のこだわりをすごく感じますね」
「写真を撮るときは、自分で思考してモノを見るということに意識が向かいますよね。しかもそれが形として表出することそのものが僕にとってはおもしろい。自分で撮った写真を見ると、シャッターを切って、次のシャッターを切るまでに流れていた時間のことを思い出します。『本当に楽しかったときはシャッターを押してないんだよね』とか。過去の写真には当時の自分が反映されていて、そんな自分を愛おしく感じることもあります」
実はこのカメラ、一度越智さんの手元から離れたことがあるそう。
「モノを手放すことで自分の人生の中にある物語を意識的に書き換えようとすることがあるんです。でも戻ってきたということは『自分の手元にあるべきモノ』として上書きされた。だからもう壊れて使えなくなるまで一緒にいる存在なんだろうなと思っています」
フローリスト/作家・越智康貴さんが10年使ったもの①ライカのコンパクトデジタルカメラ D-LUX
高画質と携帯性を両立したコンパクトカメラ。暗めのトーンで撮影しても陰影が豊かに映り、光源もにじまず輪郭がきれいに描写される
20年近く現役のクローゼットの中の「最古の服」
次に紹介してくれたのは、たくさんある洋服の中でも所有歴が一番長いというコム デ ギャルソンのハーフパンツです。
「専門学校に通っていた18歳のときに買ったものなので、もう20年近く愛用しています。当時ギャルソンといえばデザインコンシャスな世界観のイメージでしたが、百貨店の店員さんがこのパンツにゆるっとしたフーディーとバスケットシューズを合わせて着ていて。『ギャルソンでこんな着こなしができるんだ』と驚きました」
スラックスをバスケットパンツにしたようなデザイン。ラフでありながら、どこか端正な雰囲気が漂う
「当時3万円くらいでしたが、学生だったので頑張って買った記憶があります。流行に左右されないシンプルなデザインなので、ジャケット以外なら何にでも合うし今でも毎年夏になると必ず履いています」
ファッションの好みにはサイクルがあって、シンプルなものが好きな時期、デザイナーズなど派手めなものが好きな時期、古着が好きな時期と、3つくらいの好みが入れ替わるという越智さん。そのタイミングで洋服を手放すことも多いといいますが、ギャルソンのハーフパンツは一度も手放そうと思ったことがないそう。
キレイめな素材と絶妙な丈感でオンの日もオフの日も使える
「すごく好きなデザインというわけではないんです。でもなぜか履いちゃう。外側は割ときれいですが、紐のところとか、内側は結構ボロボロ。だけど捨てる気にはなれなくて、くたくたになっても手放せないタオルみたいな愛着があるんですよね」
履き心地やデザインだけでは説明できない魅力。モノとしての価値以上に、一緒に過ごした時間に愛着を感じているのかもしれません。
フローリスト/作家・越智康貴さんが10年使ったもの②コム デ ギャルソンのハーフパンツ
サラッとした素材で着心地がよく、毎年夏の定番。ウエストはゴムでカジュアルなのに、きちんとしたシャツにも合わせられる便利な一着
普遍的な魅力を感じるジノリの花器
仕事柄たくさんの花器を扱う越智さんですが、所有しているものの中で一番古いのがイタリアの高級磁器ブランドであるリチャード・ジノリ(現ジノリ1735)の花器です。
建築家・デザイナーとして数々の名作を残したジオ・ポンティ(1891-1979)がデザインしたシリーズの中のひとつです。
「ジオ・ポンティはすごく素敵なガラスのシャンデリアを作っていて、注目していたデザイナー。後からこの花器のことを知って、『こういうデザインもあるんだ』と親しみを感じました」
あたたかみのある色彩と、やわらかなタッチで描かれた人物画が特徴
「この花器は四季のシリーズで、4つのデザインがあるんです。僕が持っているのは『夏』。もう製造はされていないので、当時もネットオークションで購入しました。いずれは4つ全部集めたいと思っています」
「底面よりも開口部が広い花器って生けづらいんですよ。開口部が広がるのでボリュームがある花や、本数が必要になるんです。だからわさわさっと生けるんですが、この感じがすごく好きなんです」
背が低く開口部が広い、日本の花器ではあまり見ないフォルム
「生けたときに花と花器の主張のバランスをいつも同じくらいにしたいと思っていて、あんまり個性のある花器は好みではないんです。だから僕にとってはめずらしいタイプ。ですが、主張はあるのに意外といろんな花を受け止めてくれる懐の深さが魅力ですね」
「今っぽいデザインではないのに、どのタイミングでも心にフィットしてくれる不思議な存在です。最近は世の中がどんどん味わい深くない方向に向かっているように感じていて、だからこそ『ハートウォーミングなモノが身近にあるといいよね』ということをいろんな人に伝えていきたいですね」
ジノリの花器には時代や場所を超えて、人々の心をあたたかくする普遍的な魅力が宿っているのかもしれません。
フローリスト/作家・越智康貴さんが10年使ったもの③リチャード・ジノリのジオ・ポンティ コレクションの花器
果実や小麦の穂を運ぶ人物が大胆に描かれたコンポート型の花器。器自体の存在感が強く、花を生けていないときでもオブジェのように楽しめる
モノの価値は、自分との関係性の中で育まれる
10年愛用したモノを眺めながら、越智さんはこう語ります。
「よく『あの人ってこういう人だよね』ということがありますが、それは絶対的な評価ではなく、その人との関係性の中で生まれた見え方だと思うんです。モノの価値も同じで、誰にとっても共通のものではなく、自分との関係性の中で形づくられていくものではないでしょうか」
人との付き合いが、一緒に過ごした時間や積み重ねた経験によって深まっていくように、モノとの関係も使い方や過ごした時間によって変化していきます。経年変化や使い込まれた痕跡には、その人だけの物語が刻まれていて、それがモノの価値をより深いものにしていく。
越智さんにとって、モノは「自分を映し出してくれるような存在」でもあるそう
「食器ひとつをとっても、なんとなく選んで、なんとなく使うのではなく、そのモノの良さを見つけながら付き合っていくほうがずっとおもしろいですよね。モノとの相対的な関係の中で、『どうすればもっと味わい深い存在になっていくのだろう』と考えながら、それぞれが自分なりの関係を育てていけたら素敵だと思います」
モノとの関係も人との関係も、良いところを見つけながら付き合っていくことで、時間と共に味わいが増していく。そんな向き合い方ができたら、日々の暮らしはもっと豊かになるのかもしれません。
撮影/wacci 編集・文/豊泉陽子
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