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長く使い続ける「一生モノ」にはスペック以上の理由があります。モノ選びのプロ12名が、過去と未来の10年を見据えて厳選した計72の価値あるアイテムを紹介。ずっと愛着がわく一生モノ選びのヒントを提案します。

前編では、越智さんが10年以上も愛用してきた大切なアイテムをご紹介しました。30代を過ごしていく中で、モノを選ぶことに慎重になっていったという越智さん。後編では今の越智さん自身を映し出す、『10年先も使いたいモノ』についてお話を伺います。

REVIEWER

越智康貴

フローリスト・作家

越智康貴さん

1989年生まれ。埼玉県出身。文化服装学院を卒業後、2012年に原宿のアパレル店舗でフラワーショップ「ディリジェンスパーラー」をオープンし、2016年に表参道ヒルズに移転。2026年に『文學界』で小説家としてデビュー。

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目次

モノ選びは自分自身を映し出す行為

「子供の頃に、家庭が経済的に苦しかった時期があるんです。だから僕の場合、モノを所有することと安心感が結びついてしまっていて。若い頃はモノ自体よりも、所有することに執着があったんですよね。“どんなモノに囲まれるのか、が自分自身を映し出す”なんてことは考えずにモノを増やしていました。けれど年を重ねていく中で、少しずつ意識が変わってきたんです」

「以前のように『色違いも持っていたほうが安心』とか『今買わないと二度と手に入らないかもしれない』といった不安や焦りからモノを購入しないようにしています。代わりに『そのモノが今の自分にふさわしいのか』そんな視点でモノを選ぶようになりました」

フローリスト/作家・越智康貴さんが10年後も使いたいもの

「例えば、多くの人は自分らしさを表現するために服を増やしていきますよね。でも僕は減らしていくことで、その人らしさが浮かび上がってくるように感じていて。今の自分に『本当に必要なモノ』を残すことで自分というものがどんどん明確になっていく。自分自身がクリアになってくると、出会うモノや選ぶモノも変わってきます。“モノとの出会いや選択自体が、自分自身を映し出している”と気づいてからは、所有することへの執着を少しずつ手放せているのかな、と思います」

安心感を求めてモノを増やす習慣から解放され、前よりも慎重にモノ選びをするようになったという越智さん。彼がこの先「10年も共にしたい」と考えるアイテムについてお話を伺います。

イッタラのアルヴァ・アアルト コレクションの花器

フローリスト/作家・越智康貴さんが10年後も使いたいもの①:イッタラのアルヴァ・アアルト コレクションの花器(エピソードを読む

FIVE THIRTY PARKのフープピアス

フローリスト/作家・越智康貴さんが10年後も使いたいもの②:FIVE THIRTY PARKのフープピアス(エピソードを読む

コアラのソファベッド

フローリスト/作家・越智康貴さんが10年後も使いたいもの③:コアラのソファベッド(エピソードを読む

表現の幅を広げてくれる、一番生けづらい「花器」

今までたくさんの花器に触れてきた越智さんが“一番生けづらい”というのが北欧を代表するブランド・イッタラのアルヴァ・アアルトコレクションです。

「これは割と最近手に入れたもので、ちょうど1年くらい前にヘルシンキへ行ったときに出会いました。そこでデザイナーのアルヴァ・アアルトの自宅やスタジオを見学して、改めて作品に触れる機会があったんです」

最大の特徴は、直線や左右対称ではない自由な曲線。デザイナーの姓でもある「Aalto」はフィンランド語で「波」を意味し、湖や水辺の風景から着想を得たとされる

「もともと北欧デザインが大好きというわけではないのですが、この花器だけはずっと気になっていて。というのも、本当に花が生けづらいんですよ(笑)。以前、仕事で何度か使ったことがあって、その難しさを知っていたからこそ逆に欲しくなってしまったんです」

一般的な円筒形の花瓶とは異なり、くびれや広がりがあるため、花や枝が自然な方向に広がる

「購入したのはイッタラのお店ではなくて、ヴィンテージ家具屋さんみたいなお店でした。同じデザインの現行品は日本でも買えるし、値段もそこまで変わらなかったのですが、そのとき見つけたものはガラスの厚みや揺らぎが特別に見えて。『これは今買わないと後悔するな』と思って持ち帰りました」

現在もフィンランドの工場で職人による吹きガラス製法が続けられていて、成形後にはカットや研磨の工程を経るため、わずかな個体差が生まれるといいます。

花を生けるための器でありながら、それ自体がひとつの風景になる

「改めて使ってみると、本当に難しい。でもその難しさがおもしろいんです。いろんな花を試したり、本数を変えたりするたびに新しい発見がある。こんなふうに毎回違う表情を見せてくれる花器って、意外と少ない気がします」

「普通の花器だと、だんだん『この花器にはこう生ける』という定番の形が決まってくるんですけど、これはそれがない。毎回想像力を使いながら向き合えるところが魅力ですね。むしろ考えすぎないほうがかわいく生けられたりもして、そのバランスがおもしろいなと思います」

「フォルム自体もすごくフォトジェニックなので、花を生けるのも撮影するのも楽しい。使うたびに初心を思い出させてくれるような存在です」

フローリスト/作家・越智康貴さんが10年後も使いたいもの①イッタラのアルヴァ・アアルト コレクションの花器

1936年のガラスデザインコンペティションで入賞し、1937年のパリ万博で国際的な評価を獲得。以来90年近く作り続けられ、フィンランドを代表するデザインとして世界中で愛されている名品

シルバー派からの転換になった初のジュエリー

今まではシルバーアクセサリーを好んでつけていた越智さんが、自身の装飾品の転換になったと語るのがFIVE THIRTY PARKのピアスです。

FIVE THIRTY PARKは、ジュエリーブランドAHKAHのクリエイティブディレクターを務めた青柳龍之亮氏が2015年に立ち上げたブランド。AHKAH HOMMEの遺伝子を受け継ぐミニマルで繊細なデザインが特徴です。

「親しい友人が、同じブランドの小さなフープピアスをつけているのを見て、繊細さがめずらしくて素敵だなと思いました」

18Kゴールドで仕立てられたフープに、繊細なブラックダイヤモンドが一列に敷き詰められている

「僕にとってはいわゆるアクセサリーではなく、初めて買った『ジュエリー』。ゴールドをつけ慣れていないため、『ゴールドだけよりも石で表情がついている方がいいな』と思ってブラックダイヤモンドの組み合わせを選びました。小さなピアスの中に、こんなにも細かく石が敷き詰められていることに感動しました」

「もともとはクロムハーツなどの存在感の強いアクセサリーが好きで、今でも魅力的に思いますが、最近はこういうさりげないものがしっくりくる。年齢や自分自身の内面の変化もあるのかもしれません」

耳たぶにぴったり沿うようなデザインで、まるで自分の一部のようなつけ心地

「買ってからは毎日つけっぱなしです。おもしろいのは、このピアスを基準に考えるようになったこと。『次はどんな髪型にしよう』とか、『このアクセサリーは合わないな』とか、ピアスが自分のスタイルを引っ張ってくれている感覚があります。もう自分の一部になりかけていますね」

まるで引き寄せられるように越智さんのもとへやってきて、すっかり暮らしになじんでいるジュエリー。これから先、お守りのような存在になっていくのかもしれません。

フローリスト/作家・越智康貴さんが10年後も使いたいもの②FIVE THIRTY PARKのフープピアス

FIVE THIRTY PARKのフープピアス

FIVE THIRTY PARKのコンセプトは、「ジェンダーニュートラル・ジュエリー」。性別や世代を問わず、長く愛用できるミニマルなジュエリーを提案している

猫たちとの時間を豊かにする白いソファ

5年ほど前から2匹の保護猫と一緒に暮らしている越智さん。猫たちのために最近迎えたばかりだというのがコアラのソファベッドです。

「前に使っていたソファがグレーとネイビーで、猫の毛がすごく目立つのでどうしようかと悩んでいました。爪研ぎもしてしまうので、革は絶対にダメだし、選択肢が限られてしまって」

白の余白を生かしたシンプルな空間に溶け込むように置かれたソファ

そんな中、撮影の仕事でコアラの店舗に行った際に見つけたのがこのソファ。

「毛がつきにくい素材で、ついたとしても目立ちにくい。最初は別のオリーブカラーに惹かれましたが、アイボリーを選んだことで自宅の白い空間に自然となじんでくれました」

「欲をいえば横幅があと10センチあったらよかったんですけど。背が高いので横に寝られないんですよね。でも大きすぎると今度は自分がずっと寝転んでしまいそうなので、結果的にはよかったのかもしれません」

ループ状の糸が生み出す立体感のあるブークレ素材。やわらかな肌ざわりと温もりのある表情が特徴

「そもそも僕は家具を新調するということにかなり腰が重いタイプ。『自分の居場所を固定されたくない、自由でありたい』みたいな意識が強くて。だから収納も箱だったり、折り畳めるラックにしているんです。もっとアットホームな部屋にしようとしたこともありますが、どんどん無理になってきてしまって。モノが少ないシンプルな空間が落ち着くんです。一人暮らしだったらソファすら置いていなかったと思います」

そう語る越智さんですが、猫たちと過ごす時間は何よりも幸せを感じるかけがえのないひととき。愛猫との暮らしを優先して選んだソファには、越智さんらしいモノ選びの価値観が静かに表れていました。

フローリスト/作家・越智康貴さんが10年後も使いたいもの③コアラのソファベッド

コアラのソファベッド

3.5人掛けの「コアラソファーベッド BYRON」。座面を手前に広げるだけで瞬時にベッドに早変わり。暮らしをさりげなく格上げするデザインと、マットレスメーカーならではの本格的な座り心地を実現

心地よさの基準を、自分の中に見つける

最後に「長く付き合える『ホンモノ』を見極めるために、自分に問いかけていることはありますか?」と質問してみました。

「昔は有名なデザイナーのモノや高価なモノを追いかけていた時期もありました。今振り返ると、それはモノの力を借りて自分を大きく見せようとしていた部分があったのだと思います。今は、平たくいえば背伸びをしなくなった。『自分とちゃんと釣り合うものは何だろう』『自分の人格を自然に映し出すものは何だろう』ということをよく考えます」

「何かが足りないから手に入れるとか、買うことで自分を変えようとするとか、そういう気持ちから選ぶモノは、案外本当に必要なモノじゃない気がしていて。むしろ、自分を大切にする延長線上に自然と入ってくるモノのほうが、長く愛せるんじゃないかなと思うんです」

猫たちと過ごすひとときが越智さんにとっての至福の時間

「そのためには、まず自分にとっての心地よさを知ることが大事。『何をしているときに一番自分らしいと感じるのか』。僕の場合は猫をなでて、体温や命のきらめきを感じているときがすごく自分らしい。だからモノを選ぶときも、その時間をより豊かにするためのモノを自然と選ぶようになります」

「心地よさの基準は人それぞれで、自分にしか答えが出せないもの。他人の価値観や社会的な正解ではなく、『自分は何が好きなのか、何をしていると幸せなのか』。そういうことを丁寧に見つめ続けることで、自分との信頼関係ができていく。そして、その先にあるモノ選びは、きっともっと自然で、幸せなものになるのではないでしょうか」

撮影/wacci 編集・文/豊泉陽子